【追う!マイ・カナガワ】学童保育利用料、大きい市町村の裁量 予算、運営体制…

学童保育の比較

 保育園不足が全国で課題となる中、安く利用できる学童保育のニーズも高いのではないか。横須賀市学童保育連絡協議会事務局次長の永松範子さんに事情を聞いた。

◆運営は「すごく不安定」

 国や市町村の基準を満たす学童には公・民に関係なく国、県、市町村から補助金が支給され、利用料とおよそ半分ずつで運営されている。

 「利用人数が減ると補助金額が下がるため、急に収入が減る年もありますが、人件費や家賃の固定費はかかる。すごく不安定な運営なんです」と永松さんは言う。

 新型コロナウイルス禍では、感染防止で利用を控えてもらうための返金対応にも追われた。大家から急に立ち退きを迫られることもあり、永松さんは「予期せぬ事態に備え、どこも内部留保したいはず」と打ち明ける。

 家賃ゼロの小学校内の学童でも利用料がそれほど下がらないのは、保護者会運営のクラブも多いという運営体制にも要因があるようだ。会計知識が豊富でないと、先々の資金繰りを見越すことも難しい。

 同協議会は長年、学童事業への市の積極的な取り組みを求めてきた。市は2019年にようやく初の公設学童を1カ所設置したが、それでも料金は月1万3千円と課題は残る。

◆横浜はなぜ安い?

 では、月最大5千円の横浜市の「放課後キッズクラブ」(キッズ)は、どんな仕組みなのか。

 横浜市を取材すると、「就労家庭が増える中、行き場がない児童が出ないよう整備を進めてきた」結果、一般的な学童とは形態が異なるキッズが生まれたことが分かった。

 キッズ最大の特長は、(1)保護者の就労に関係なく全児童が無料で利用できる(2)留守家庭の児童が有料で利用できる─二つの時間帯に分かれていることだ。放課後子ども教室と学童保育の二つの機能を持つことで、文部科学省と厚生労働省からそれぞれ補助金を受けられる体制になっている。

 横浜学童保育連絡協議会によると、横浜でも1970年代以降に学童が増えていったが、当初はほとんどが、横須賀と同じような民設だった。

 転換期となったのが2004年。市はすでに全校展開していた、全児童対象の学校施設を活用した放課後の遊び場「はまっ子ふれあいスクール」を土台に、学童保育の機能も加えたキッズへの切り替えに着手。20年には市立小全340校への設置が完了した。

 キッズへの市の基本予算は1カ所当たり約1千万円で、約500万円という横浜や横須賀の民設学童(40人モデル)と比べると2倍の差がある。キッズは、利用料を取らない時間帯は国の補助金や市の負担で運営され、「利用料なしでも最低限の固定費は賄える」(同協議会)仕組みだから、安く利用できるわけだ。

 国は、キッズのような放課後教室と学童保育の一体型を推進しており、横須賀市も検討していく方針だが、全校展開しているのは、川崎市、東京都板橋区など全国でも一部に限られ、「横浜のキッズのように放課後子ども教室が毎日開かれているのはめずらしい」(文科省)という。

◆格差解消には国の制度が必要

 全国学童保育連絡協議会からは「横須賀の利用料は確かに全国的にも高いが、保育の質に関わる職員の処遇を大切にしている面も大きく、単純に安くすべきとは言えない」とも聞いた。

 そもそもなぜ、自治体によって料金や運営体制に差があるのか。学童保育に詳しい石原剛志静岡大教授は「保育園と違い、学童は市町村の裁量が大きい。国や県を含めた補助金をどう配分するかは自由で、人件費を削ることも、逆に手厚くすることも可能。まさに市町村の姿勢が問われている」と解説してくれた。

 職場や自宅近くなど預け先が選べる保育園と違い、学童は通っている小学校周辺しか選択肢もない。石原教授は「住む場所によってなぜこんなに料金が違うの、という声はもっとも。いろんな面での格差を埋めるには国レベルでの制度づくりが必要」と指摘する。

© 株式会社神奈川新聞社