入院中の女性兵士も襲撃…北朝鮮軍内の鬼畜事件

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の女性兵士が、遺書を残して自殺を図り重態に陥る事件が発生した。軍内で蔓延する、性暴力の被害を受け続けた末の選択だった。

デイリーNK内部情報筋が伝えた事件のいきさつは、次のようなものだ。

事件の被害者は、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)に駐屯する朝鮮人民軍第7軍団の指揮部電信電話所交換分隊で、幹部席の交換手として勤務していた女性兵士のAさん。

黄海南道(ファンヘナムド)出身で、17歳のときに軍に入隊、第7軍団に配属されたが、その直後から性暴力が始まった。

当時、第7軍団の政治指導員だった40代のキム少佐は、1年近くAさんに対して常習的に性暴力を振るっていた。その見返りとして「一生面倒を見てやる」と言っていたキム少佐だが、政治軍官(将校)を養成する政治大学に入学してから連絡が途切れてしまった。

性暴力はここで終わらなかった。一般兵士の人事を司る隊列部の副部長ハン中佐は、自らのオフィスにAさんを呼びつけ、性暴力を加えた。その見返りとして幹部席の交換手に進級させた上で、性暴力を続けた。

2人の上官からの性暴力に苦しみ続けたAさんは、政治イルクンとなり、女性兵士への性暴力を一掃する決意で、政治軍官学校に志願した。

ところが、将校の人事を司る幹部部長チョ上佐(大佐と中佐の間の階級)は、志願書を不合格にした上で、政治軍官学校に行きたいのならばと、地下のトーチカ内にある自分のオフィスにAさんを呼び出した。

チョ上佐の策略に気づいたAさんは、出身地を同じくする、軍官の妻Bさんから携帯電話を借りて、オフィスへと向かった。チョ上佐は下着姿でAさんを待ち、顔を合わせるやすぐに5000北朝鮮ウォン(約120円)100枚の札束を渡し、朝鮮労働党への入党を推薦してやる、大学の学費も出してやると言って、性関係を要求したという。

Aさんが拒否してもみ合いになると、ポケットから録音機能がオンになった状態の携帯電話が飛び出した。チョ上佐はAさんを暴行した上で、携帯電話の持ち主も脅迫した。

この事件をきっかけにBさんはAさんを疎んじるようになり、Aさんは裏切られたと感じ、孤立を深めていったという。

それからしばらくして、第7軍団に総政治局の検閲(監査)が入ったが、あろうことか、検閲の担当者はAさんに性暴力を働いていたキム少佐だったのだ。彼は、共に検閲にやってきたチョ大佐(上述のチョ上佐とは別人)が滞在する部屋にAさんを呼び出し、再び性暴力を振るおうとしたが、激しく抵抗され、未遂に終わった。

軍医所に入院したAさんは、もはや軍にはいられないと考え、今年の10月に除隊を申請した。しかし軍団は、心身ともに安定していない状態での除隊は認められないとして、除隊を来年2月まで先延ばしする決定を下した。

後は軍医所で除隊の日を待つばかりだと思いきや、今度は軍医所の内科課長で、労働党の細胞書記を務めるリョム某に、「ディメドロン」という睡眠薬を飲まされ、性暴力を受けてしまったのだ。意識を取り戻したAさんは、そのことに気づき、自ら命を絶とうとした。

出血がひどかったのに血液不足で輸血ができず、意識不明の状態に陥ってしまったAさん。その後、12枚の便箋の裏表にびっしりと文字が書き込まれた「信訴(告発)請願の手紙」と題された遺書が発見された。内容について情報筋は言及していない。

未遂も含めて5人もの上官に性暴力被害を受けるという事態に、軍当局も調査に乗り出した。そして、加害者に対しては処分が下されたものの、職務一時停止、異動などの軽いものに済まされた。加害者に高位幹部である総政治局の大佐が含まれていたことによるものという。

一方、未だ意識不明の状態にあるAさんに対しては今月20日、除隊通知が出された。北朝鮮軍は通常、冬季訓練中の12月には除隊を行わないため、極めて異例の措置だ。もはやAさんは民間人。事件の隠蔽、縮小を図ろうとする軍当局のやり方に、最後の最後まで踏みにじられ続けたのだ。

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