長崎半島

 直木賞作家、故高橋治は長崎を舞台にした小説「別れてのちの恋歌」で、長崎半島をこんな言葉で表現している。〈先端に行くほど地形が複雑になり、陸路からは、数多くの深い入江や、砂浜に囲まれた湾が、どちらの方角を向いているのかさえのみこみにくい〉▲先端部にはかつて、貝の博物館と呼ばれた野母崎マリンランドや県亜熱帯植物園があり、長崎市中心部から一日がかりで家族と遊びに出かけた思い出がある▲確かに、小説が出版された30年以上前は道路事情も悪く、陸の孤島といった印象だったが、最近は国道の拡幅工事などが進み、各種案内板も充実。県外からの観光客が安全で快適なドライブを楽しめる環境が整ってきている▲この秋、「水仙の里」などで知られる野母町に、誘客の新たな核となる市恐竜博物館が開館した。周辺部には飲食店なども増え、週末を中心に若者や家族連れでにぎわっている▲地元の野母崎地区では2005年の長崎市への編入合併以降、「地域の衰退が一層進んだ」との危機感も強く、古里活性化への期待は大きい▲小説は大人の恋がテーマ。脇岬地区や樺島、軍艦島も登場し、個性あふれる祭りや文化、地域住民の義理人情がみずみずしく描かれている。そんな魅力ある半島部のこれからのまちづくりに期待したい。(真)

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