同性パートナー制度、人口の半数超をカバーへ 東京が導入方針、「慎重派」小池知事を動かしたのは

記者会見する「東京都にパートナーシップ制度を求める会」=2021年6月

 2021年12月7日、東京都議会本会議。答弁に立った小池百合子知事は、LGBTなど性的少数者のカップルを公的に認める「同性パートナーシップ制度」を、東京都が22年度内に導入すると表明した。当事者団体の「同性パートナーシップ・ネット」によると、導入済みの自治体は137。東京が加わると総人口の5割以上をカバーできる計算だ。首都での制度導入は、同性カップルの権利保障に関する国会での議論にも影響を与える可能性がある。これまで消極的な姿勢だった都が方針転換した背景を探った。(共同通信=清鮎子)

 ▽当事者の請願が「風穴」を開けた

 導入表明に大きな役割を果たしたのは、当事者らの団体「東京都にパートナーシップ制度を求める会」。3月、小池氏と面会し、制度の創設を求めてオンラインで集めた署名約1万8千筆を提出した。

 代表の山本そよかさん(36)は同性のパートナーと約10年一緒に暮らす。活動を始めたきっかけは、新型コロナウイルスのまん延。昨年のクリスマスに会った友人たちは、パートナーの入院に付き添えない可能性があることへの不安を次々に漏らした。何年一緒に暮らしていても、公的には家族と認められていないためだ。会えないまま死別してしまった人もいた。「一番つらいときに、差別的な扱いを受けるなんて」

記者会見する小池百合子知事=2021年12月

 ▽後押しをした都議たち

 東京都は18年10月、性的少数者への差別を禁止する条例を全国で初めて制定している。それ以来、都議会ではパートナーシップ制度の導入も求める声が上がるようになった。ただ、小池氏や都は「国民的な議論が必要」「各自治体の判断が尊重されるべきだ」と答弁し、慎重な姿勢を続けてきた。

 山本さんらの活動を支え、後押ししたのは都議たちだった。山本さんらが小池氏と面会する前には、公明党の栗林のり子都議(当時)が引退前の最後の議会質問で「生きづらさをなくすのが政治家の役割」と小池氏に詰め寄った。

 都民ファーストの会の龍円愛梨都議も、小池氏との面会や陳情活動をバックアップしていた。

 ▽選挙が影響した可能性も

 多様な家族の在り方に対する社会の理解が広がっている点も大きい。都民や都内在勤・在学者を対象にした調査では、7割が「パートナーシップ制度は必要」と回答。小池氏が導入の理由として挙げたのも、この調査結果だった。

 タイミングも影響したと言えそうだ。自民党会派はもともと導入に後ろ向きとされたが、5月末、山本さんらが提出した請願を全会一致で「趣旨採択」した。趣旨採択とは、簡単に言えば今回は採択できないが請願の趣旨には賛同するというもの。採択に比べ実現への働きかけが弱まるが、全会一致の事実は重い。自民党が真っ向から反対しなかった理由について、ある関係者は「7月に控えていた都議選の前に、悪目立ちしたくなかったのではないか」とみている。

東京都議会=2021年11月

 ▽国会での議論に波及も

 「やっとだ」「次は同性婚実現だ」。小池氏による導入表明に、性的少数者のカップルたちは祝杯を挙げた。山本さんは「自分とパートナーの人生をやっと社会に肯定してもらえたようで、うれしい」と目を輝かせた。

 市民団体「LGBT法連合会」の神谷悠一事務局長も「首都の導入には象徴的な意味があり、国会での議論に影響していくだろう」と歓迎。「実効性のある制度にしてほしい」と期待を寄せた。

 東京都は性的少数者の支援団体や有識者へのヒアリングを重ね、21年度中に制度の基本的な考え方を示す。ヒアリングでは、カップルでの同居に苦労したり病院でパートナーの病状を説明してもらえなかったりする悩みが出された。担当者は「解決するためにどういう形で支援できるのか検討したい」と話す。導入済みの都内自治体や民間企業との連携も模索する。

 ▽問われる自治体の本気度

 課題は、神谷事務局長も指摘した実効性。制度には法的拘束力がなく、婚姻届の提出だけであらゆる保障を受けられる婚姻とは異なるためだ。

 

東京都庁

実生活でパートナーとしての待遇を得るには、制度を導入する自治体が生活に関するさまざまな規定をパートナー制度に紐付けなければいけない。例えば兵庫県明石市が21年1月に開始し、子どもとの家族関係も認める「明石市パートナーシップ・ファミリーシップ制度」は、連携医療機関での家族としての対応、市営住宅の入居、市営墓地の継承など、適用される内容は多岐にわたる。

 つまり、導入する自治体の「本気度」によって、適用されるサービスの数や質が左右され、実効性のある制度になるかどうかが決まる。

 ▽どこよりも進んだ内容に

 課題は他にもある。カップルの認証方式が自治体ごとに違い、どの自治体の証明書なら家族向けのサービスを提供できるか、企業が判断に苦慮している点だ。利用者にとっては引っ越しのたびに証明書を発行する必要があり、転居先の自治体によってはサービスが受けられなくなる不利益がある。

 制度導入を推進してきた龍円都議は、オンラインで証明書の発行ができるアプリの開発を提案。仕組みを他自治体も利用できるよう都が開放することで、課題を解決できると指摘する。「どこよりも進んだ内容にし、首都としてけん引してほしい」と話した。

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