【2021年鹿児島 取材ノートから】奄美 自然遺産登録 多様性評価、4年越しの悲願 交通事故、密猟…保全へ〝宿題〟

オビトカゲモドキ=徳之島町母間

 2021年、南日本新聞の社会面で注目された鹿児島県内のニュースを、取材ノートを基に振り返る。

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 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」は7月26日、世界自然遺産に登録され、4年越しの悲願に地元は沸いた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会は固有種が数多く息づく生物多様性を評価する一方、絶滅危惧種アマミノクロウサギの交通事故対策の強化を要請。希少種の大量採集や密猟も常態化が懸念されている。「人類共通の財産」を後世にどうつなぐか、宿題を託されたといえる。

 日本政府がユネスコに登録を推薦したのは2017年。ユネスコ諮問機関は、推薦地に飛び地が多く一体的な保全ができないことを理由に18年、登録延期を勧告した。希少種を捕食する外来種対策も要請。環境省は野生化した猫(ノネコ)の捕獲に乗り出した。19年に再推薦し、ようやく登録にこぎ着けた。

 「観光客の増加につながる」と地元では経済効果への期待が高まった。だが、「遺産の島」として注目を集めることは、希少動植物の生息が脅かされることにつながりかねない。徳之島の取材でそう実感した。

 山林にバナナ入りのストッキングが大量に仕掛けられ、クワガタなどの昆虫が吸い寄せられていた。パトロールを続ける住民の「またか」という怒りが忘れられない。捕獲自体を禁じた場所ではなかったが、大量の生物が採取されれば生態系が崩れる恐れがある。「規制強化が必要」という住民の訴えにうなずいた。

 徳之島ではごみの不法投棄も目の当たりにした。アマミノクロウサギなどを捕食するイヌやネコの放し飼いも多い。古くから続く習慣と決別できるか、住民のモラルが問われている。

 奄美大島、徳之島でのアマミノクロウサギの交通事故死は11月末時点で61件。過去最多だった昨年の66件に迫る。行政はチラシ配布や道路への看板設置で事故を防ごうとしてきたが、効果が薄いのは明らかだ。

 環境省は10月、夜間観察スポットになっている奄美市住用の市道三太郎線で通行車両の規制を始めた。大和村では建設業者が道路への飛び出しを防ぐネットを設置した。こうした取り組みが広がってほしい。

 「自然保護への関心が高まった」。住民は声をそろえる。奄美大島では住民主体の外来種駆除が行われ、徳之島のNPO法人が主催する清掃活動はこの10年で10人から300人まで増えた。今年を“保全元年”としたい。

奄美大島と徳之島にのみ生息する国指定特別天然記念物のアマミノクロウサギ
ハブみこしで世界自然遺産登録決定を祝う奄美大島5市町村の関係者ら=7月26日、奄美市役所

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