「宇宙の奥行き」を測定する上で役立った渦巻銀河

【▲渦巻銀河「UGC 9391」(Credit: ESA/Hubble & NASA, A. Riess et al.)】

こちらは「りゅう座」の方向およそ1億3000万光年先にある渦巻銀河「UGC 9391」です。渦巻銀河の特徴といえば円盤部で渦を巻く渦巻腕ですが、UGC 9391の渦巻腕はあまりはっきりとはしていません。画像の右側や下側には針状の光をともなう星が写っていますが、これらはいずれも天の川銀河にある恒星で、針状の光は望遠鏡の副鏡を支えるスパイダー(梁)で回折した光によるdiffraction spike(回折スパイク)と呼ばれるものです。

UGC 9391の周囲には赤みがかった小さな天体が数多く見えていますが、これらは地球から見てUGC 9391よりも遠くに存在する銀河です。明るく輝く天の川銀河の星々、1億3000万光年先のUGC 9391、そしてはるか遠方にある無数の銀河が果てしない宇宙の奥行きを感じさせる一枚ですが、UGC 9391は天文学者にとって、より具体的な「宇宙の奥行き」を測定する上で役立つ銀河となりました。

冒頭の画像は、遠くの宇宙までの距離を測る「宇宙の距離梯子(はしご)」の精度を高めるために「ハッブル」宇宙望遠鏡を使って撮影されました。欧州宇宙機関(ESA)によると、地球からの距離を直接測定できるのは3000光年程度よりも近い天体で、それよりも遠い天体までの距離は「宇宙のものさし」となる手法を幾つもつなぎ合わせることで求められています。宇宙の距離梯子とは、いろいろな「ものさし」をつないで遠方宇宙までの距離を測定する様子を、はしごをつないで高みを目指そうとする様子にたとえた呼び名です。

宇宙の距離梯子を構成する「ものさし」のなかには、変光周期が長いものほど本来の明るさが明るい「セファイド(ケフェイド)変光星」や、本来の明るさがほぼ一定であることが知られている「Ia型超新星」(白色矮星と恒星の連星系などで起きるとされる超新星)を利用するものがあります。両者を比較すると、Ia型超新星はセファイド変光星よりも遠くまでの距離を測定するのに用いられる「ものさし」と言えます。

UGC 9391ではセファイド変光星を「ものさし」として利用できますが、2003年にはもう一つの「ものさし」であるIa型超新星「SN 2003du」がUGC 9391で検出されました。宇宙の「ものさし」に使われる2種類の天体を1つの銀河で観測できる機会が巡ってきたわけです。UGC 9391がつないだ2つの「ものさし」であるIa型超新星およびセファイド変光星の比較は、「ものさし」としてのIa型超新星を較正し、地球からの距離をより正確に算出する上で役立ったといいます。

【▲UGC 9391におけるセファイド変光星の位置(赤丸)とIa型超新星「SN 2003du」が検出された位置(水色のX字)を示した図(※冒頭の画像とは向きが異なります)(Credit: NASA, ESA, and A. Riess (STScI/JHU))】

冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」による可視光線・赤外線の観測データから作成されたもので、ハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚としてESAから2021年12月27日付で公開されています。

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Image Credit: ESA/Hubble & NASA, A. Riess et al.
Source: ESA/Hubble
文/松村武宏

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