<社説>'21回顧・スポーツ 県勢活躍、五輪の課題露呈

 新型コロナウイルスによる史上初の延期を経て東京五輪パラリンピックが今夏開催された。県勢は五輪に10人、パラに2人が出場。五輪では二つの金メダルと銅を獲得し、県民に大きな感動を与えた。 一方で、コロナ下での開催は国民を二分した。大会組織委会長の女性蔑視発言、膨張した大会経費、国際オリンピック委員会(IOC)の商業主義。開催ありきの批判を受けながら強行されたスポーツの祭典は後味の悪さも残した。

 空手発祥の地出身の喜友名諒選手が男子形初代王者となった。野球の侍ジャパンで平良海馬投手も優勝に貢献。レスリングの屋比久翔平選手が見事に銅を獲得した。パラリンピックでも上与那原寛和選手が銅二つを手にした。

 これ以外の県勢選手も紛れもない活躍だった。代表争い、海外勢との出場権を巡る戦いに勝って上がったステージで力を最大限に発揮する姿は沖縄の子どもたちの目に焼き付いただろう。沖縄スポーツ史にエポックとして刻まれた。

 拡大するコロナウイルスの感染状況に開催機運は高まらなかった。大会開幕前に森喜朗組織委会長による女性蔑視発言が問題化。大会式典の制作関係者による女性侮蔑演出の不祥事も水を差した。

 緊急事態宣言下での強行には開幕直前の世論調査で8割近くが反対。会員制交流サイト(SNS)では選手への誹謗(ひぼう)も広がった。IOC幹部は緊急事態宣言下でも開催すると明言し、不安の広がる世論をより厳しいものとした。五つ星ホテルでのVIP待遇など、五輪貴族と呼ばれるIOC幹部、関係者の金満体質は今大会でも改まらなかった。

 組織委は、開催経費は総額1兆4530億円との見通しを発表した。追加の公費負担は避けられたが、当初見込みは7340億円で2倍近く膨れ上がった。この枠に収まらない関連経費も膨大とされる。国民負担が不透明なままでは、自国開催で58個のメダルを獲得したという選手団の功績以外に五輪開催の意義を見いだすことは困難だろう。

 SNSでの誹謗中傷、遅れる男女平等、共生社会の実現―。大会は日本社会のひずみをさらけ出した。選手ファーストの視点の欠落、IOCの独善体質など現代五輪の課題も表面化した。

 批判を受けて組織委のジェンダーバランスが改められた。大会経費の検証も欠かせないはずだ。これ以外にも大会を契機に露呈した社会課題に向き合わなければ、2030年冬季大会の誘致に乗り出すことはできない。

 五輪のほか今年も県勢が目覚ましい活躍を見せた。具志川商の甲子園初出場初勝利と九州大会初制覇、駅伝の北山が男子過去最高の27位に入り、花園初出場の読谷が奮戦した。プロ野球宮城大弥投手の新人王、バスケットボールの安間志織選手のプレーオフ最優秀選手賞もあった。全ての県勢の奮闘をたたえる。

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