【コラム】国際カジノ見本市「MGSエンターテインメントショー」 オンライン形式で2年ぶり開催(WEB版)/勝部悠人

マカオは世界最大のカジノ売上を誇る都市として知られるが、国際ゲーミング(カジノ)見本市が定期開催され、業界の最新トレンド及び人材が一堂に会するハブとしても存在感を示している。規模が大きいものとして、春季の「G2Eアジア」、秋季の「MGSエンターテインメントショー」の2つが挙げられる。前者はラスベガス発祥の「G2E」のアジア版として、アメリカゲーミング協会及び国際展示会大手リード・エグジビションズの共催で2007年に、後者は地元マカオのゲーミング機器製造業者の組合にあたる澳門娯楽設備廠商会の主催で2013年にそれぞれスタートし、年に一度ずつ開催されてきた。いずれも2020年以降はコロナ禍でボーダーを跨ぐ移動が困難となったこと、ゲーミング業界を取り巻く経済環境の変化、マカオ域内における防疫措置などを理由に通常開催できない状況が続いている。

G2Eアジアは、早い段階で次回の開催予定を2022年8月末に延期すると発表。丸2年の空白が生じることになるが、不定期でオンラインセミナーを開催するなどして対応している。一方のMGSエンターテインメントショーは、恒例開催時期となる11月中旬に、2年ぶりの開催にこぎつけた。当初、リアル会場とオンライン形式を併用するハイブリッド型とアナウンスしていたが、結果的にはオンラインの一本となった。マカオでは、今夏以降に新型コロナ市中感染確認例(輸入関連性事案)の出現が相次ぎ、水際措置及び域内における防疫措置の調整が頻繁に行われたこともあり、安全を期しての判断だったものと想像される。

今回のMGSエンターテインメントショーでは、「持続可能な発展のための交流」がメインテーマとして掲げられた。例年の会期は4日間だが、今回は1日のみに。ただし、開幕の挨拶を含めて業界関係者及び専門家らによる9つの講演、パネルディスカッションなど、ラインナップは充実。ポストコロナ時代を見据えたマカオのエンターテインメント、テクノロジー、ツーリズム業の革新的なソリューション及び復興促進策といったトピックが主となった。

基調講演はマカオ理工学院准教授のエドムンド・ロイ氏による「マカオゲーミングエコノミーのニューノーマル」。マカオ経済は全体的に回復に向かっているとの認識を示した上、中国本土旅客にとって香港・マカオのデスティネーションとしての人気は続くとみられるが、当地における消費習慣の変化が進む中、マカオのゲーミング業界及びツーリズム業界は観光要素の更なる充実が不可欠であり、ニーズに合わせて柔軟に対応することが求められるとした。
大きく注目されたのは「マカオのエンターテインメント&ツーリズム業の復活(IRオペレーター編)」と題したパネルディスカッション。マカオ大学コマーシャルゲーミング研究所のデービス・フォン所長がモデレーターを務め、マカオ政府とカジノ経営コンセッションを締結する6陣営から1人ずつ代表者がゲストに招かれた。

カジノ運営各社からは、コロナ禍で赤字を余儀なくされる中、コスト抑制が重要課題との声も聞かれたが、一方でIRに対する投資を継続しているとしたところも多かった。あるカジノ運営企業の代表は「IRはトレンドであり、かつマカオの中長期的発展見通しも明るい中、施設の競争力向上につながる投資を続けるのは当然」と語り、業界全体としてこれに近い感覚を共有していることがわかった。また、IRといえども、従来型のハード偏重ではなく、最新のIT技術を応用した集客につながるコンテンツ開発を重視していることも伺えた。

また、業界の中では、今後マカオ市場が復活を遂げるためには、水際措置の撤廃が必要となるが、実現のためにはワクチン接種率を85%以上とすることが求められ(筆者注:現状は約7割)、高齢者の接種率が低迷する状況の中で、来年の完全正常化は困難との見方が広がっているようだ。しかし、「ゼロコロナ政策」を採る中国本土、香港に限っての正常化についての見通しは明るく、仮に2022年3月に中国本土、香港、マカオの三地の間で隔離検疫免除での往来が完全に再開され、同年第3四半期にも中国本土における訪マカオ許可(観光ビザに相当)のオンライン申し込み手続き及び中国本土からの訪マカオ団体旅行がともに再開されれば、同年のカジノ売上はコロナ前の2019年比で6割水準まで回復する可能性もあるという。

なお、近年のMGSでは日本版IRが主要なトピックとして取り上げられてきたが、残念ながら今回は見送られた。

マカオのカジノIR運営6陣営の代表がゲスト参加したパネルディスカッションの様子(「MGSエンターテインメントショー2021」中継映像より)

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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