「遠藤文学の世界広がる」 未発表3戯曲発見 専門家 人生との対話促す作品

「善人たち」の清書原稿の一部(長崎市遠藤周作文学館提供)

 長崎市遠藤周作文学館で新たに、遠藤の未発表戯曲3作品の自筆草稿と清書原稿が見つかった。今年はキリスト教文学の大家の死去から四半世紀の節目で、専門家は「質の高い作品ばかり。遠藤文学の世界が広がる発見」と話している。
 文芸誌「三田文学」元編集長で遠藤と親交の深かった加藤宗哉さん(76)=東京都在住=は「遠藤の戯曲は小説に比べ圧倒的に数が少ない。代表作の『黄金の国」(1966年)や『薔薇の館』(69年)に匹敵するような作品が、没後に三つも見つかったことに驚いている」と話す。
 特に「善人たち」について注目。「小説でも扱ってこなかった、米国のプロテスタント信者の家庭が舞台となっているのが珍しい。人種の違いや善悪の問題、キリスト教と戦争など、多くの要素が盛り込まれており、遠藤文学の世界が広がる作品」と解説する。
 遠藤はかつて素人劇団「樹座(きざ)」を主宰していたこともある。加藤さんは「遠藤は演劇の視覚効果に強い興味を持っていた。内容を直接的に伝えられる戯曲は、遠藤に合った表現方法だったのだろう」と指摘。その上で「発見された作品の中には絶頂期である50代に執筆されたと推測されるものもある。当時に発表されなかったのは不思議」と話した。

遠藤周作の未発表戯曲発見の経緯などを説明する川崎さん=長崎市役所

 同館学芸員の川崎友理子さん(29)は28日の記者会見で「いずれも完成度、内容共に既に発表されている戯曲と比べて遜色ない。さまざまな時代や舞台が設定されているが、読者が自分の問題として人生との対話を促されるような作品」と強調。「昨年の『影に対して』の発見以来、遠藤の遺族から改めて原稿資料の調査を依頼されていた」と経緯を明かし、「引き続きエッセーなどの未発表作発見に取り組みたい」と意欲を述べた。


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