彗星の頭部はグリーンなのに尾が違うのはなぜ? 90年来の謎を解明

【▲彗星の頭部(コマ)は印象的なグリーンになりますが、尾(テイル)がグリーンの色合いになることはありません(Credit: NASA Goddard)】

2020年夏、世界中の多くの人々の目を楽しませてくれたネオワイズ彗星、そして2021年の年の瀬に現れたレナード彗星、いずれもグリーンのコマが印象的でした。

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多くの彗星は太陽に近づくにつれて、彗星の頭部であるコマはグリーンに変化しますが、頭部に続く尾(テイル)の部分までグリーンに変化することはありません。この謎は1世紀近くも科学者を悩ませてきました。

1930年代、ゲルハルト・ヘルツベルク(Gerhard Herzberg、1904-1999、1971年ノーベル化学賞受賞)は、この現象は太陽光と彗星の頭部にある有機物との相互作用によって生じる化学物質、すなわち「二原子炭素」(C)が太陽光によって破壊されるためだと説明しました。しかし、二原子炭素は安定な状態では存在できないため、この理論はなかなか検証できませんでした。

この度、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW Sydney)が主導した新しい研究は、この化学反応を実験室で検証する方法を発見し、90年来のこの理論が正しいことを証明しました。

この謎で中心的な役割を担っている二原子炭素は、2つの炭素原子が結合した二原子分子で、反応性が高く、星や彗星、星間物質など、極めて高いエネルギー状態または低酸素の環境でのみ存在することが分かっています。彗星のコマをグリーンに変化させる原因であることも知られています。

彗星が太陽に近づくまで二原子炭素は彗星の中に存在しません。しかし、太陽が彗星を暖め始めると、彗星の本体である氷の核の中に含まれる有機物が蒸発し、コマに移動します。そして、太陽光がこれらの大きな有機分子を分解し、二原子炭素を作り出すのです。

研究チームは今回、彗星がさらに太陽に近づくと、極紫外線が「光解離」と呼ばれるプロセスで、有機分子の分解によって作り出された二原子炭素をバラバラにすることを明らかにしました。

この過程は、二原子炭素が核から離れ遠くへ移動する前に破壊されるため、グリーンのコマを明るくし、縮小させると同時に、尾の部分にまでグリーンの色合いが及ばないようにしているのです。

この謎を解くには、地球上の制御された環境下で、銀河系内と同じ化学的プロセスを再現する必要がありました。今回、研究チームは、真空チャンバーと大量のレーザー、そして強力な宇宙反応を利用して、これを成功させたのです。

宇宙化学が専門で、15年間、二原子炭素を研究してきたシュミット教授は、今回の発見は、二原子炭素と彗星の両方をさらに深く理解するのに役立つと語っています。

「二原子炭素は、彗星の核内で凍結した大きな有機分子、つまり生命の材料となるような分子が分解してできたものです。二原子炭素の寿命と破壊を理解することによって、彗星から蒸発する有機物の量をより正確に把握することができます。このような発見が、いつか他の宇宙の謎の解明につながるかもしれません」

本研究は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。

Image Credit: NASA Goddard
Source: UNSW Sydney / 論文
文/吉田哲郎

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