「ジュニア世代の『受け皿』を作りたい」 競技と仕事を両立するセパタクロー日本代表の内藤利貴選手が目指す未来とは

内藤利貴選手(提供:内藤利貴選手)

アクロバティックなプレーで観客を魅了する、東南アジア発祥の球技「セパタクロー」。「名前は聞いたことがあるけれど、どんなスポーツなのか具体的にはわからない」という方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
今回インタビューするのは、大学入学時にセパタクローと出会い、日本代表のエースとしても活躍されている内藤利貴選手。
現在、企業で社員として働きながら、日々のトレーニングや試合だけでなく、普及活動にも励んでいる内藤選手に、セパタクローの魅力から日本国内の競技事情に至るまで詳しくお伺いしました!

セパタクローとの出会いは大学入学時の「挫折」がきっかけ

ーーセパタクローを始めたきっかけはなんだったのですか?

幼稚園から高校までは、ずっとサッカーをやってきました。競技歴は10年以上でしたね。大学でもサッカーを続けようと思っていましたが、練習に参加すると周囲とのレベルや体格の差を感じました。「●●選抜」や「●●のユース出身」といった選手が多く、レギュラーになることはかなり難しかったですし、途中でアルバイトに打ち込むなど中途半端になることも嫌だったので、きっぱりサッカーは辞めようと考えたんです。そこで、新しいことを始めようとしたときに出会ったのがセパタクローでした。

ーーある意味、「挫折」がきっかけだったんですね。初めてセパタクローをプレーしたときの感覚はどうでしたか?

楽しかったですね!最初は上手くできないんですよ。ボールの大きさも蹴り方も、サッカーと全然違いますし、思ったところにボールが飛んでいかない。できないのが楽しくて、のめり込みました。ほぼ毎日練習していましたね。

ーーまさに熱中されていたんですね!上手くなっていく感覚も自分でわかるものなんですか?

わかりますね。リフティングや味方とのパス交換が日に日に続いていくようになったりして、実感できることはとても多かったです。

ーーちなみに、どんな方が向いている競技ですか?

足を使うスポーツという点では、やはりサッカー経験のある方はスタート時点で少しアドバンテージがあるかなと思います。あとは、身体の柔らかい人ですね。柔軟性があれば、プレースタイルの幅は広がってきます。私も最初はストレッチにかなり時間を使いました。

ーー大学での主な戦歴についても、ぜひ教えてください。

大学1年生時に、セパタクロー歴2年以内の選手に出場資格がある「新人戦」に出場し、その大会で優勝してMVPも獲得させていただきました。その後、社会人も出場する全日本選手権で、大学4年生時に学生チームとして準優勝を収めることができました。

ーー華々しいご経歴ですね!

先輩から「一緒にチームを組まないか?」といった声をかけていただくなど、チームメイトにも恵まれて運も良かったと思います。
それに、勝ちたいという気持ちは非常に強かったですね。だからこそ、届かなさそうなボールにも必死に足を伸ばしにいったり、滑り込んだりするなど、泥臭くアグレッシブなプレーが評価していただけたのだと思います。

ーー新しく始めたスポーツで、すごいスピードで駆け上がっていかれたんですね。その後、日本代表に選ばれたのはいつからですか?

先述した大学1年生時の「新人戦」後に、練習生として代表の練習に参加させていただきました。その後、2014年の仁川で行われたアジア競技大会で正式に日本代表として派遣していただきました。それが20歳、大学3年生のときですね。

ーーカレッジスポーツとはいえ、その活躍のスピードの早さに周りの方々は驚いていませんでしたか?

驚かれましたね(笑)特に家族は大変驚いていました。セパタクローを始めたときには「日本代表を目指せるかも」とは言っていましたが、両親も自分も本当になれるとは思っていなかったので。

試合中の様子(提供:内藤選手)

覚悟を持ってセパタクローと仕事の両立を決意

ーーここまで学生生活での出来事について伺っていきましたが、社会人になっていくうえでのプロセスについても教えてください。

競技を続けていくかどうかは非常に悩まれる方が多いのですが、私は日本代表として大会に出場させていただいた頃から、大学卒業後も競技を継続することを決めていました。その時点で、どういった企業に所属するべきなのかといった情報を収集し、現在に至ります。先に就職をしていたセパタクローの現役選手でもある先輩の紹介で出会うことができました。

ーー働きながらの競技生活ということですが、どういったお仕事をされているのですか?

普段は、病院や福祉施設、ご家庭でご使用いただいている医療機器や健康食品の営業活動をしています。

ーー両立するうえで大変なことはなんですか?

やはり体力面でハードだと感じることは多いです。家に着くのが遅い日は22時30分になることもあるので、食事だけでなく身体のケアや睡眠時間の確保などが難しいこともあります。また、競技中に怪我をしたとしても仕事に影響を及ぼすわけにはいかないので、体力的に大変だなと思うことは何度もありますね。

ーーフィジカル面だけでなくメンタル面でも大変ですよね。ご自身としてはどのようにコントロールされているのですか?

それは割り切ったというか、自分が決めた道なので、これぐらいの覚悟は必要だと思っています。他国ではセパタクローのプロ選手も存在していますが、そういった選手に勝つためには、「これ以上の努力が必要だ」と社会人1年目から感じているので、上手く割り切ることは大切だと思います。

ーー社会人になってからの成績はいかがですか?

国内大会では優勝・準優勝と好成績を収めることもできましたが、順風満帆なわけではなく、怪我に悩まされた時期も経験してきました。
2018年2月に足首をひどく捻挫し、歩くことすらままならない状況になってしまいました。その時期、アジア選手権の代表選考が控えていたので、それに間に合わせられるかという焦りと不安、本当に復帰後にパフォーマンスが戻せるかという恐怖感がありました。その期間は、かなり精神的に辛い時期でしたね。
それでも仕事は続けなければいけなかったですし、「この仕事の時間を治療に充てることができれば……」と考えたことも何度もありました。でも、これが自分の決めた道ですし、この状況でどう早く治すことができるのかということにベストを尽くしていました。

ーーそれは大変でしたね……。社会人になってもセパタクローを続けている方は、ほとんどの方が別で仕事もされているのですか?

日本国内の社会人選手は、ほぼ仕事と競技を両立しています。セパタクローの本場であるタイやマレーシアでは、ひとつの大会に優勝するだけで数百万円という賞金を手にすることもできますが……。

試合中の様子(提供:内藤選手)

まずは「受け皿」を作ること。生涯セパタクローに携わり、若い世代にバトンをつなぎたい

子どもたちに教える内藤選手(提供:内藤選手)

ーー競技を続けていくうえで、場所や資金面での問題など、課題や壁を感じることはどんなことですか?

セパタクローを自由にプレーできる場所を確保する必要があると思っています。現状では場所を探すことも大変で、定期的に練習できる施設を確保することも簡単ではないです。

ーー代表選手として、仲間との練習の時間や場所も合わないですよね。

今の状態だと、月1回程度ですね。連携を合わせることはなかなか難しいです。今後の願いとしては、セパタクローでお金を稼げるような仕組みを作りたいと思っています。好きなことで生活ができるような競技にしたいですね。
まだまだ競技だけやっていても稼げないですし、若い世代への普及が不足していること今後の課題になっていると思います。

ーーセパタクローを普及していくために予定していること、展望はありますか?

子どもたちの世代にも普及させやすいようにルールを改良したり、まずは「リフティングだけ」といったように段階的にセパタクローを体験してもらえるような取り組みが行われたりしています。現状は、子どもたちが「セパタクローをやりたい!」と思っても受け皿がない状態なので、今後はジュニア世代がプレーできるようにクラブチームなども作っていきたいですね。

ーーちなみに、内藤選手自身が目指していることは?

2026年に、アジア競技大会が愛知県名古屋市を舞台に行われる予定です。自国開催ということもありますので、そこで金メダルを獲得することが今一番の目標ですね。家族や周囲の理解、サポートが必要になることも出てくると思いますが、続けられる限りは選手として活動し続けます。引退後もセパタクローには、生涯携わっていきたいですね。
どんどんセパタクローを広めていきたいですし、自分の子どもがセパタクローをやりたいと思ったときにすぐにさせてあげられるような環境、子どもがセパタクローの選手になることを夢見られるような環境にしてから、次の世代にバトンタッチしてあげたいなと思っています。

ーー最後に、メッセージをお願いします!

セパタクローを社会人として続けていくことに不安や葛藤もありましたが、実際は意外と大丈夫だったんです。競技をしながら家庭を持つことも不安に感じたことはありますが、周りも助けてくれますし、支えてくれる人も大勢いました。自分の感覚ですが、悩みや不安の8割は“いらない心配”だったと思います。
まずダメもとでもやってみて、希望があったらまず言ってみる。それでダメなら、また別の方法を考えればいいですし、サポートしてくれる企業もたくさんあります。もちろんそのためには信頼関係も大切ですし、自分が目の前のことに全力で努力することは欠かせませんが。セパタクローに興味があれば、ぜひ飛び込んでみてください!

インタビューを受ける内藤選手

取材後記

日本国内だけでなく世界規模においてより高いパフォーマンスを目指していくことや、これからの若い世代がセパタクローに関心を持ちやすくなる環境を作っていくことに対して、内藤選手の情熱を感じ取ることができたインタビューでした。
これからあらゆる地域において、気軽に楽しく、セパタクローをはじめとした“ベンチャースポーツ”がプレーできる時代になることを期待したいです。内藤選手のクラブチームでは、体験会も実施されているとのことです。ご興味をお持ちになられた方は、ぜひ一度セパタクローを体験してみてください!

内藤利貴選手の情報はこちら!

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