覚悟なければ「1、2年で終わる」 楽天入り西川へ…恩師・高嶋氏の厳しい言葉に滲む愛

智弁和歌山で甲子園に出場した西川遥輝【写真:共同通信社】

日本ハムから“ノンテンダー”、新天地・楽天で2022年プレー

2022年に新天地でスタートを切る選手も多い。日本ハムで11年プレーした西川遥輝外野手もその一人。新たに楽天のユニホームに袖を通す。智弁和歌山高時代の恩師・高嶋仁名誉監督は「まだまだやれる」と期待を寄せながらも一方で「1、2年で終わるかもしれない」と厳しい目も向ける。「やんちゃとは違う」素顔や高校時代のエピソードを交えながら、その理由を解説。激励は教え子への愛情そのものだった。【市川いずみ】

西川のセンスは小学生の頃から光っていた。「初めて見たのは小学6年生の頃。足が速い印象でしたけど、打つ、投げる、もう抜けていましたね」。和歌山・紀の川市出身の西川は、ほとんどを地元選手で戦う智弁和歌山にはどうしても欲しい選手となった。

高嶋氏が西川に惚れ込んだのは、身体能力だけではない。「走り方、肩、ユニホームの着方ですね。いい選手はかっこいいんですよ。ユニホームもスマートに着ますから。僕には大事な要素。技術はそこからですよね」。技術以外のセンスも兼ね備えていた。

一目惚れ。だが、懸念点はあった。「いい子はうち(智弁和歌山)には来ない。半分は諦めていましたね」。和歌山県内のトップクラスの選手は全国の強豪校へ進学する傾向にあるという。しかし、西川は地元を選んだ。「間違って来てしまったのでは?」と恩師は笑い飛ばす。

いい選手は学年に関係なく積極的に試合に出す方針。西川のデビューは入学した約1か月後の春季大会だった。「6番くらいだったかなぁ、ショートで。ええ子は最初から使って、頭を打って勉強させるんです」。ただ、指揮官の思惑とは反対に、西川は頭打ちを食らうどころかこの大会で3試合連続を含む4本塁打。背番号19の1年生は華々しいデビューを飾った。

当時から色白で甘いマスクが印象的だった。笑顔からは“やんちゃさ”も伺えるような気がしていたが、「やんちゃという感じとは少し違うんです」。高嶋氏の中では「自己主張ばっかりで、言うことを聞かないのがやんちゃ。でも、西川はそうじゃない。ちゃんとわきまえておるんですよ。機転が利きますから」。

智弁和歌山・高嶋仁名誉監督【写真:荒川祐史】

「遥輝はどうした?」周りを見渡してもいない…恩師の忘れられないエピソード

印象的なエピソードがある。「僕の機嫌が悪くて、ミーティングが長くなると思ったら(西川は)その輪にいないんですよ。『遥輝はどうした?』というと『(担任の)先生に呼ばれまして……』と周りが言う。そうやって抜けるんですよ。賢い子だから、機転が利きますね。プロに行く選手はそういう子が多いです。(担任の先生から)呼ばれるはずがないでしょう……」。半分呆れたように笑って振り返る。

2008年の1年夏は「9番・三塁」で2回戦から出場した木更津総合(千葉)戦でそんな天性の賢さを見せた。ひとつの盗塁がそれを物語る。

「盗塁のサインはないので、盗んだら行っていいよと伝えていました。そしたら、1球目から行くんですよ。アウトになったら怒るのですが、彼は西川は『特徴が分かります』と言って(アウトに)ならないんですね。しっかりと、ベンチで見ているんですね。そういうのは教えられませんから」。智弁和歌山での3年間、高嶋氏は西川に野球を「教えたことはない」と言い切る。

可愛い孫について語るように、教え子を思い、言葉を紡いでいく。一つの質問に対する回答に感じた熱に愛情を感じる。西川も高嶋氏の元を毎オフ、挨拶に訪れており、敬意を表している。

旅行が趣味の高嶋氏は、2018年4月26日、北海道へ足を運んだ。教え子は最高のおもてなしを用意していた。

「『チケットあるか?』と聞いたら、用意してくれましてね。球場に行ったら、他のお客様と入り口が違って……いい席に案内してくれました。眺めもよくてね」

西川はこの日「1番・中堅」で出場し、5打数2安打1盗塁の活躍。恩師の目の前で結果という恩返しをした。

「試合後に電話がかかってきて『監督が来ていたので、必死に……打たなかったら後で何を言われるかわからない』と。『毎日来るぞ』と言ってやりました(笑)。必死なんだなと思いましたね」。

3打数1安打で終わるのと4打数1安打で終わる違い

西川は今年でプロ生活12年目に突入する。これまでの活躍を認めつつも、伝えたいことがあるという。

「ちょっと気になるのはチャラチャラしているところですね。あれがなければもっといい成績を出せます。ゲームに出ていますよね。うちの家内がよく見ているんですけど『髪の毛が黒くなったら3割打てる』と。そうしたら打った。チャラチャラなくなったら全日本(侍ジャパン)の1番を打てると」。もちろん、冗談交じりだが、「あれはイカン」と念を押すあたり恩師として切実に“イメチェン”を望んでいるのかもしれない。

昨季の成績は打率.233ながらも24盗塁で盗塁王のタイトルは獲得した。30歳という節目を迎える教え子に「打率はもう少しあげないといけない」。打率をあげるために必要なのは決して安打を放つことだけではない。

「4打数1安打と3打数1安打……。1個の違いだけど、3打数1安打だったら(1)億をもらえる。4打数1安打なら5000万。四球を1個選べばいいんです。難しいですというけれど、それで飯を食っているんだろう、と。ヒット200本は難しいかもしれないけど、2ストライク3ボールで粘って四球。その積み重ねが大きいんですよ」

その積み重ねが、トータルの成績で多く変わってくる。これが高嶋流のプロで生き残る極意なのかもしれない。今後生き残っていくために必要なのは「3割」だという。

「自分のいいところを出さないと。新しいチームに行ったら、追い詰められてやらないと1、2年で終わります。周りがいい選手と思ってくれないと生き残れませんからね」。楽天の外野手には、打点王に輝いた島内宏明やゴールデングラブ賞を獲得した辰己涼介、他にも岡島豪郎やオコエ瑠偉など陣容は豊富だ。

その中で西川がどのような持ち味を発揮するのか。「まだまだいけますから。そういう場所を与えてもらわないといけないけど、自分で掴まないといけない。足はね、まだまだいけますよ。左翼で1番で使ってもらえればそこそこやれると思います」。心機一転、仙台の地で躍動する西川の姿を見に行くことを、旅好きの恩師は楽しみにしている。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。元山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。NHKワースポ×MLBの土日キャスター。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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