2022年日本株は米国株を上回る上昇へ、経済正常化が株式市場の後押しにならない構造を解説

主要な金融商品の2022年相場について専門家に聞く年始特別連載、第1回目は「日本株」です。 昨年の春夏は新型コロナウイルスのデルタ型の感染拡大により、国内外の経済活動は大きく制限されていたにもかかわらず、日経平均株価は終値で27,000円台を維持する底堅さを見せました。

今年はどうなるのか、昨年に引き続き三井住友DSアセットマネジメントの山崎慧・ファンドマネージャーに解説いただきます。

<写真:ロイター/アフロ>


コロナ再拡大でも株式市場は堅調だった2021年

昨年は特に春から夏にかけては新型コロナウイルスのデルタ型が世界中で猛威を振るったにもかかわらず、株式市場は概ね堅調な推移を続けました。昨年の元旦の寄稿「2021年日本株、最大の逆風はコロナの感染収束 株式は人類の暮らしと乖離し続け上昇へ」で述べた通り、そもそも株式市場は経済全体と異なりコロナの影響を受けにくいというのが最大の理由と思われます。

今年はどうなるのか、結論から言えば、2022年の株価は上昇するものの、2021年と比べて上昇率は世界的に鈍化、その中で日本株は相対的に堅調で米国株を上回るパフォーマンスになると考えています。その理由を、「株とは何か」、「経済とは何か」という基本に立ち返り、経済の構造と相場を俯瞰しながら解説します。

構造上、株主の立場は弱い

株とは企業の所有権を分割したもので、株を買うことによって株主はその企業のオーナーになることができます。オーナーはその企業の余った利益を受け取ることができます。余った利益とは、「取引先」、「労働者」、「債権者」、「政府」におカネを払った後の金額です。

岸田首相らは株主第一主義の是正を繰り返し呼び掛けていますが、そもそも会社という形態上、株主への分配の順序は最後で、株主の利益を最優先させることは不可能です。英語で株はステーク、主はホルダーですが、株主こそがまさにステークホルダーであり、取引先や労働者はしばしば利害関係者と訳されるようなステークホルダーではなく、よりも立場の強いコントラクター(契約者)と言えます。

例えば、居酒屋の経営者は忙しい年末年始にアルバイトがシフトに入ってくれなければ(労働契約不成立)、自分で働き続けるしかありません。その意味で、店主の地位はアルバイトよりも低いと言えます。しかしその対価として、店主は年末年始の儲けを独占できるのです。

2021年初までは景気が弱く、物価(取引先への支払い)、賃金(労働者への支払い)、金利(債権者への支払い)、税金(政府への支払い)はいずれも少なくて済みました。つまり、株主が余った利益の大部分を独占できる環境にありました。景気回復の初期の局面で株価が大きく反発するのはまさにこのような理由からです。

経済活動正常化の恩恵を受けるのは誰?

今年は経済活動正常化が本格的に根付く年になるでしょう。新型コロナウイルスのオミクロン型が懸念材料であるものの、重症化する割合は低いとのデータが多く出ているほか、ワクチンに続いて経口治療薬が開発・認可されていることを考えると、昨年と比べて経済活動が戻る余地はまだ十分にあると言えます。

しかし、経済活動の正常化は株価の裏付けとなる上場企業の利益を増やす要因には必ずしもなりません。行動制限で大きな打撃を受ける業種は飲食や旅行、娯楽・スポーツ施設をはじめとした対面サービス業、航空・鉄道などの輸送業ですが、その他の製造業や鉱業、電力・ガスなどの公益、金融業などはほとんど悪影響を受けません。医薬品、インターネットやハイテク関連などはむしろ行動制限などの恩恵を受ける業種でしょう。行動制限による悪影響を受けるセクターは日米ともに1割ほどです。最も大きな悪影響を受ける飲食や旅行は小規模企業や個人事業がほとんどでそもそも株式市場に上場していません。

飲食や旅行への需要が高まることは、資金の流れる先が上場企業から非上場企業へと変わることを意味します。多くの人が飲み会や旅行をし、実店舗でのショッピングが忙しくなり、ネット広告やサブスクリプション型の動画サービスを見る時間が減ってしまえば、上場企業の利益は伸びにくくなります。

世界的に株価の上昇は鈍化へ

また、景気が回復すれば、株主以外のコントラクターへの支払いも増加します。経済活動正常化に伴うサプライチェーンのひっ迫に伴い、原材料コストは上昇を続けています(取引先への支払い)。失業率の低下によって賃金も上昇しており、雇用コストも上がります(労働者への支払い)。

短期金利市場は米連邦準備制度理事会(FRB)による今年3回の利上げを織り込むなど、中央銀行による金融引き締めも本格化すると見られ、金利コストも上昇します(債権者への支払い)。コロナ対策で積み上がった財政赤字の穴埋めのために法人税や金融所得課税、高所得者へのキャピタルゲイン増税も各国で議論されており、税務コストも上がる見込みです(政府への支払い)。

以上のことを考えると、景気の回復に伴って企業の売上は増加が見込まれるものの、株価の裏付けとなる株主の利益は想定以上に増えにくい環境にあると言えそうです。株式市場は世界的に上昇が続くと見ているものの、その伸びは昨年から大きく鈍化するでしょう。

日本株が米国株を上回るパフォーマンスに?

その中で、日本株は相対的に堅調な上昇となると考えます。昨年は米国株がS&P500指数で見て25%、円ベースでは実に40%を超える上昇となったものの、日本株は日経平均株価で5%程度の上昇にとどまるという、歴史的なパフォーマンス格差となりました(日本時間2021年12月30日15時時点)。

この理由としては国力や企業が生み出すイノベーションの差などさまざまなものが挙げられますが、ここまで大きく差がついたのは米国の株式市場ではテック、ヘルスケア、コミュニケーションサービスというコロナによって恩恵を受ける業種が半分以上を占めるのに対して、日本では製造業が6割という構造の違いが挙げられます。

また、日本では賃金・物価の上昇圧力も米国と比べて限定的で、中央銀行による利上げは議論の俎上にも載っていません。長期的には米国株を通じた革新的な企業への投資は魅力的ですが、こと2022年に限って言えば、日本株は米国株を上回るパフォーマンスになると予想します。

これまでは株価指数全体の上昇に伴い、多くの投資家が利益を上げる状況が続いてきました。しかし、今年はインフレの動向や中央銀行の金融引き締め、政府による増税の動きを見ながら、局面によって選別が求められる展開になると筆者は予想します。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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