2022年の鉄道事始めは「小田急ロマンスカー」で 箱根を「観光型MaaS」でめぐる EXEαから登山鉄道に乗り継ぐ(前編)【コラム】

箱根湯本駅に到着したEXEα。リニューアルでは、外装にロマンスカー伝統のバーミリオンオレンジの帯を追加。内装も新しくなり、トイレも車いす対応の洋式に改造されました

2021年12月に発表されたリクルートじゃらんリサーチセンターの「人気温泉地ランキング2022」。16回目の今回、前年まで15年連続で首位だった箱根温泉が初めてトップを草津温泉に明け渡して話題を集めましたが、それはともかく全国有数の人気温泉郷が神奈川県箱根です。箱根が支持されるのは「交通の便利さ」。新宿から「小田急ロマンスカー」に乗車すれば、乗り換えなしで箱根湯本に直行できます。

2022年の鉄道初乗りはロマンスカーで(実際の現地取材は2021年12月末ですが)。トピックスでは、小田急グループの小田急箱根ホールディングスが2021年10月から「観光型MaaS」を本格スタート。スマートフォンでデジタルチケットを購入すれば、スマホ画面を見せるだけで、小田急や箱根登山鉄道のほか、ケーブルカー、ロープウェイ、観光船、路線バスを乗り継いで箱根エリアをストレスなく回遊できます。2回連載の前編では、新宿から一路、登山鉄道強羅へ。それではロマンスカーに乗車しましょう。

「箱根につづく時間を優雅に走る」

JRと私鉄をあわせて1日350万人(コロナ禍前)が利用する新宿駅。通勤通学、買い物と人々が忙しく行きかう新宿駅にあって、異空間が広がるのはロマンスカーが発着する小田急電鉄1階2、3番ホームかもしれません。ロマンスカーは純粋な観光列車ではありませんが、一歩車内に足を踏み入れると、「乗った時から旅が始まる」というワクワク感を抱くことでしょう。余談ですが、2018年にデビューした「GSE(70000形)」のコンセプトは「箱根につづく時間(とき)を優雅に走る」だそうです。

現行ロマンスカーは前述の「GSE(70000形)」、東京メトロ千代田線に乗り入れる2008年就役の「MSE(60000形)」、2005年に登場した「VSE(50000形)」、2017年から営業運転する「EXEα(30000形)」(1996年デビューの「EXE」のリニューアル車です)の4タイプ。往路の新宿発箱根湯本行きはEXEαで、観光と通勤の〝リアル二刀流〟を目指した特急車。ムーンライトシルバーとディープグレイメタリックに塗り分けたボディーに、バーミリオンオレンジの帯を通したスタイリッシュなロマンスカーに、さっそく乗り込みます。

小田急ロマンスカーの直近の話題では2021年12月17日、VSEの通常ダイヤでの定期運行が来春のダイヤ改正前日の2022年3月11日で終了するという情報が発信されました。一つの時代を築いた車両の早すぎる引退には、寂しさを禁じえません。

2018年の東北沢―和泉多摩川間複々線化でスピードアップ

小田急ロマンスカーの売りは、何といっても前方眺望。EXEαには前面展望席はありませんが、ワイドに視界が広がります

そんな感傷に浸る間もなく、ロマンスカーは新宿駅を発車。小田急といえば、2018年3月のダイヤ改正で東北沢―和泉多摩川間(10.4キロ)の複々線化が完成し、列車増発をはじめ輸送力が大幅に強化されたのが記憶に新しいところです。実はこの時、小田急は複々線区間に隣接する新百合ケ丘―向ケ丘遊園間の運転方法を見直し。各駅停車の合間をぬって走る特急や急行が、極力速度を落とさずに済むようにダイヤを組み直しました。

その効果もあって、EXEαは新百合ヶ丘、相模大野、本厚木、秦野、小田原と快走を続け、小田原から箱根登山鉄道に入り、1時間40分ほどで終点の箱根湯本に到着。最近の座席指定列車では半ば当たり前になっていますが、着席情報は車掌さんの携帯端末に伝達されるので車内検札はなく、その点も快適性を高めます。

ロマンスカー終点で登山鉄道が発車する箱根湯本駅は、観光地の玄関口らしいおもむきある駅舎。構造は橋上駅で、コンコースなどは2階にあります。小田急は1950年から箱根湯本への乗り入れを始めました

スマホ一台で箱根旅行が完結

箱根湯本では、ホーム反対側に停車する箱根登山鉄道に乗り継ぐのですが、その前に今回の箱根紀行の主な目的・観光型MaaSを紹介しましょう。「交通の総合情報基盤・MaaS」というのは、あくまで教科書的な表現で、実際には「スマホ一台で箱根旅行が完結」と言い切った方が理解しやすい気もします。

観光型MaaSの新しい機能では、小田急箱根ホールディングスの観光情報サイト「箱根ナビ」を、大幅にリニューアル。13種類ものチケットが、スマホ操作で購入・決済(支払い)できるようになりました。

購入できるのは2020年10月スタート時点で、「デジタル箱根フリーパス」、登山電車・ロープウェイ「デジタル大涌谷きっぷ」、登山バス・海賊船「デジタル芦ノ湖きっぷ」、箱根登山電車1日乗車券「デジタルのんびりきっぷ」などなど。次いで2021年11月には「デジタル芦ノ湖ライナー」、翌12月には「箱根遊び放題チケット(はこチケ)」が加わり、使い勝手が一段と向上しました。

マイカー派も取り込む観光型MaaS

ここでワンポイント、注目したいのが2021年10月から発売中の「デジタル箱根のりものパスLite」です。乗り物パスのターゲットは、ずばりマイカー客。箱根をマイカーで訪れる観光客が登山電車やロープウェイ、観光船に乗るというと若干の違和感を覚えるかもしれませんが、これには箱根の交通事情が関係します。全国有数の観光地・箱根は、春秋の観光シーズンなどに道路が大渋滞。マイカーでは、身動きが取れなくなります。

「デジタル箱根のりものパスLite」で、マイカー駐車場が用意される箱根町港。芦ノ湖では海賊船が出港を待ちます。海賊船を運航する箱根観光船は小田急箱根ホールディングスの完全子会社です(写真:小田急箱根ホールディングス)

そこで、観光船(海賊船)が出港する箱根町港にクルマをとめて、渋滞しらずの観光船で桃源台へ。桃源台からはロープウェイ、ケーブルカー、登山鉄道を乗り継いで宮ノ下で下車。さらに路線バスで箱根町港に戻り、小田原や御殿場、三島といった次の目的地にマイカーで向かうのが、小田急が想定する観光ルートです。

のりものパスLiteの周遊ルート。時計回りに限定するのは、小田急や登山鉄道を乗り継いで芦ノ湖に向かう観光客が強羅→桃源台→元箱根港のルートをたどるためで、マイカー客には逆コースで移動してもらい利用均衡化をめざします(資料:小田急箱根ホールディングス)

ロープウェイや登山鉄道は、箱根の旅に変化をつけるワンポイント。MaaSのニュースでは私自身、「MaaSは通常ならライバル関係のマイカーと、鉄道やバスの公共交通機関をパートナーに変える情報ツール」と書いたりするわけですが、のりものパスは、まさにその表現通り。オミクロン株で時間はかかるかもしれませんが、観光型MaaSは箱根にやってくる外国人観光客にも有効な情報ツールになりそうです。

天下の険をスイッチバックで登る

箱根湯本駅に停車中の3000形+3100形「アレグラ号」。アレグラは、箱根登山鉄道と姉妹提携するレーティッシュ鉄道が走るスイス・ロマンシュ語のあいさつ。まるで模型の電車のようなデザインです

箱根湯本に戻り、箱根紀行を続けましょう。小田急ロマンスカーの反対側のホームに待ち構えているのが箱根登山鉄道。路線は小田原―強羅間の15.0キロで、1888年に開業した小田原馬車鉄道がルーツです。電気鉄道としての箱根湯本―強羅間の営業開始は1919年で、1世紀を超す歴史を持ちます(会社としては2018年に創業130年を迎えました)。

〝天下の険〟とうたわれた箱根の山を登るため、路線は急こう配の連続。途中に3回のスイッチバックがあり、そのたびに運転士さんと車掌さんが持ち場を変えて、車両の前後を行ったり来たりという光景は、鉄道ファンの皆さんならよくご存じでしょう。

乗車して感じたのは、観光鉄道というか観光客の利用が多い路線の性格を鉄道側がよく意識しているという点。車内放送では、彫刻の森美術館や小涌谷温泉などの沿線スポットを案内するほか、トンネルや橋りょうをはじめ歴史ある鉄道施設も説明します。

最新鋭の観光電車と旧形電車が同居

箱根登山鉄道の車両にも触れましょう。電車は事業用車を除けばモハ1形、モハ2形、1000形、2000形、3000形、3100形の6種類。ただし3100形は3000形を片運転台・2両固定編成にしたもので、3000形と大きな違いはありません。いかにも登山電車然とした旧形の1形、2形と、観光鉄道らしさを打ち出した1000形以降でスタイルがはっきり分かれるのが特徴でしょうか。

急カーブが続く箱根登山鉄道は、通常の鉄道車両のようにホロで車両をつなげません。連結面の〝ずれ〟を乗客に見てもらおうと、アレグラ号は連結面の窓を大きくとっています
箱根登山鉄道の車両といえばずばりこれという方も多い旧形のモハ1形。真ん中の車両は1940年代末に採用された青と黄色に塗装されています

最新鋭で、2014年に1両編成の3000形、次いで2017年に2両固定編成の3100形がデビューした「アレグラ号」は、連結面や側面の窓をワイドに広げ、箱根や富士山の眺望を満喫できます。一方で、旧形の1形、2形に魅力を感じるファンも多いでしょう。私の現地取材日は、旧形も営業運転されていました。

登山鉄道終点の強羅駅は箱根の山の交通結節点といったポジションで、途中の宮ノ下駅もあわせて路線バスに乗り継げます。今回は、ケーブルカーに乗り換えて芦ノ湖に向かいました。

前編はここまで。後編では、ケーブルカーやロープウェイ、さらには箱根湯本駅前のにぎわい、湯本駅近くにある小田急グループの日帰り温泉施設などをリポートしたいと思います。ぜひご覧ください。

記事:上里夏生(写真は一部を除き筆者撮影)

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