【日本一早い紅白歌合戦総括】音楽への愛に溢れた最強の音楽フェス! 2021年 12月31日 第72回「NHK紅白歌合戦」が放送

音楽を尊重する姿勢を評価、2021年の「紅白歌合戦」は最高

評論という仕事は、批判より称賛の方が難しいと思っている。

というのは、音楽であれ、映画であれ、例えばグルメであっても、ある程度の見巧者(みごうしゃ)になったなら、どの作品にも、何らかのイチャモンをつけることができるものだ。

逆に、称賛する場合は、「おいおい、あの評論家、あんなものを評価してやがる」などと、批判のときとは真逆、何らかのイチャモンを「つけられ」やすくなる。

というわけで、ある程度の緊張感をもって、以下を書くのだが―― 2021年の『紅白歌合戦』(以下、紅白)は、最高だった。

少なくとも、ここ10年で比べても、美輪明宏『ヨイトマケの唄』に極まった2012年や、リマインダーの記事『2018年の紅白は「ニューミュージック」の盛大なお葬式だった』で称賛した、桑田佳祐と松任谷由実揃い踏みの3年前より、上等だったろう。

総論的に言えば、2021年紅白を評価するのは、その、音楽を尊重する姿勢だ。

言い換えると、バラエティ色がとても薄かった。音楽以外のコーナーが少なく、お笑い芸人もほとんど登場せず、また出演者の側も、「音楽番組の頂点としての紅白」を軽んじる姿勢がまったく見られなかった。

2021年の紅白が狙ったのは音楽ファン「没入率」の別格的トップ?

「音楽番組の頂点としての紅白」=「日本最大最強の音楽フェスとしての紅白」――。

思えば、平成紅白は世帯視聴率低下との戦いだった。

視聴率がどんどん下がっていく。裏番組として、ダウンタウンや格闘技がのしてきている。何とかしなければならない。よし、音楽以外の賑やかしをどんどん導入して、バラエティ色をどんどん強めよう。

その流れに、いよいよ抗ったのではないか。世帯視聴率よりも、音楽ファン視聴率、いや音楽ファン「没入率」の別格的トップを狙う「日本最大最強の音楽フェスとしての紅白」に照準を定めたのではないか。2021年紅白のスタッフは。

大歓迎だ。たとえ、それが世帯視聴率について「戦略的撤退」であったとしても(いや、長い目で見れば、この戦略は、視聴率にも還元されると私は信じている)。

MVPは藤井風、音楽ファンが求めた “3生(生中継・生歌・生演奏)” の極致

イントロが長くなった。では総論ではなく各論的に2021年紅白を捉えてみる。MVPは藤井風だということに、もう大方の異論はないだろう。

2020年、つまり一昨年の紅白について、私は『「無観客紅白」が予想外に受け入れられたワケ』(東洋経済オンライン)という記事で、紅白全体を2部制にするという提案をした上で、こう書いた。

―― 第2部を「リアリティー紅白」とする:ここが最大の転換ポイント。別名「FIRST TAKE 紅白」。最高の生歌に加えて、最高の演奏陣による生演奏、もちろん収録なし、一発勝負の完全生放送という、ステイタス感のあふれる紅白へと転換する。先述のとおり、音楽シーンのトレンドを考えると、若年層ターゲット含めて、この方向性に市場性はあると考える。

意識的な音楽ファンは、紅白の画面の隅々を凝視していると思う。右上に「LIVE」マークが付いているか(要するに生中継かどうか)をチェックし、そして楽器の音にも耳を澄ませて、生演奏かどうかをチェックする(一見、難しそうだが、CD・配信音源のカラオケとの相違は、わりと容易に分かる)。

そう、音楽ファンは「3生」を求めているのだ。「3生」=「生中継・生歌・生演奏」。いや、これ、昭和の紅白では至極当たり前だったのが、上記のようにバラエティ色強化の中で、いつのまにかカラオケが主流になり、結果、バンドのメンバーは当て振りとなり、また、口パクも増えてきた。

音楽ファンはなぜ「3生」を求めるのか。いやいや、それが音楽ファンというものなのだ。

またイントロが長くなっている。言いたいことは、生歌・生ピアノによる藤井風の昨日のパフォーマンスは(この原稿は元日の午前に書いている)、「3生」の極致だったということ。「3生」の結果として醸し出される「生々しさ」を入れると「4生」だ。

藤井風は、たった1人で、平成紅白~バラエティ紅白の流れを蹴飛ばした。そして、「3生」「リアリティー紅白」に向けた大きな流れの最初の一滴となった。

勝利したのは、紅組でもなく白組でもなく、「風組」だ。

令和の紅白歌合戦は “3生” と “リアリティー

最後に2つ追記。1つは「『3生・リアリティー紅白』というが、そんなもの可能なのか? 理想論じゃないか」というツッコミもあるだろう。その問いに対する回答を、私は、先の東洋経済オンラインの記事で、1年前にすでに書いている。

―― 今回のメンバーの中で、第2部「リアリティー紅白」を2時間45分持たせる人選ができるのか、という指摘が聞こえてきそうだが、これは問題の立て方が逆で、「リアリティー紅白」というコンセプト前提で、ゼロから人選をするべきだと考える。

―― 音楽ファンなら、「リアリティー紅白」に出てほしい音楽家を、何人・何組でも思い浮かべることができるだろう。それでも実際問題として人選が苦しければ、時間を短縮したっていいとさえ思う。そもそも昭和の紅白は21時開始だったのだから。

2つ目の追記。『【中高年音楽ファン向け】今夜の「紅白」、注目すべき出場者は?』(Yahoo個人)に昨日、紅白の見どころ事前予想を書いたのだが、自分でも驚くほど当たっていた。2位と1位は入れ替えて、その間にYOASOBIを入れたい。というか藤井風は一種の殿堂入りなので、YOASOBIと中村佳穂は実質1位・2位だ。

(上リンク記事より)
1位:millennium parade × Belle(中村佳穂)『U』
2位:藤井風『きらり』
3位:薬師丸ひろ子『Woman “Wの悲劇”より』
4位:BiSH『プロミスザスター』
5位:上白石萌音『夜明けをくちずさめたら』
次点:さだまさし『道化師のソネット』

そして、是非こちら『「紅白」の歴史を変えるかもしれない昨夜のMVPは?』も御覧ください。

追記: 本文中にあります、筆者の記事はこちらです。『「無観客紅白」が予想外に受け入れられたワケ』

カタリベ: スージー鈴木

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