補欠野手がやがて140キロ投手に 名門シニア監督が徹底する選手の将来を見据えた指導

3度の日本一を誇る取手リトルシニア【写真提供:取手リトルシニア】

石崎氏の本職はトレーナー、自らの可能性を狭める選手にもどかしさ

茨城県の中学硬式野球チーム「取手リトルシニア」は、2011年と今年の全国選抜大会、2019年の林和男杯全国選抜大会と3度の日本一を達成し、プロ野球にもソフトバンクの柳町達外野手らを輩出した名門チームだ。First-Pitchの指導をテーマにした連載「ひきだすヒミツ」では、その強さの秘訣に迫った。監督を務める石崎氏の指導の根幹は「長く野球を続けてもらうこと」。自身の経験や仕事を通じて感じた“勿体なさ”がきっかけだったという。

茨城県取手市にある新グラウンドで毎日行われる練習では、選手たちのハツラツとした声が響く。プロ野球選手を多く輩出してきた取手リトルシニアを率いる石崎氏が目指しているのは「選手に長く野球を続けてもらうこと」だ。

石崎氏の本職はフィジカルトレーナー。高校野球以外にもバレーボールなど様々な部活動やクラブチームで選手の体をケア。子どもたちの体を見ていくうちに感じたことがあった。「怪我を持って入部する子が多かったり、もう少し野球を続ければ活躍できる可能性があるのに……と感じる子が高校で辞めてしまったりということがありました」

野球を続けていく上で大きな区切りとなるのが高校卒業時だろう。「できれば社会人でも続けてほしいけど……」と願いつつ、まずは大学のリーグで野球を続けられる選手育成を念頭に指導している。

怪我の予防、選手の適性を見極めることに注力して指導を行う

気をつけているのは、選手の適性を見極めること。トレーナーでとして培ってきた経験を基に、シニアでは野手で活躍していても、将来的に投手として大成すると感じたら、投手を選択させる。かつて、中学時代に投手として未来を感じた右翼の補欠選手がいた。進学先の監督が竜ケ崎一高時代の先輩だった縁もあり、「投手一本で勝負させてもらえますか?」と相談。この選手は投手転向当初、3回で13四死球を与えるなど苦しい経験を積んだが、高校3年時には最速140キロ超えるまでに進化を遂げた。大学進学を経て社会人野球チームから声がかかるほどの投手にまでなったという。

怪我予防に注意を払い、投手の球数を制限。大会前でも年間を通じて行うトレーニングを優先して継続させる。勉強面でも、希望者には練習後にマイクロバスで塾へ送るなどサポートを惜しまない。また、1年を通じて東京六大学に進学したOBに勉強会を開いてもらうこともある。「勉強をやらなくても許すチームではありません」。厳しい指導を行うのも、怪我や学力が足りずに野球を続ける選択肢を減らしてしまう選手を何人も見てきたからだった。

選手の将来を見据えた指導の原点は、自身の経験にある。学生時代に勉強しなかったり、怪我に悩まされたりしたことを後悔している。「野球ができれば何でも許される。そのスタンスで来てしまった。僕は気付くのが遅かったんです」。自分のような後悔を選手たちにはしてほしくない――。トレーナーで得た経験を基に、選手の未来を見た指導を続ける。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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