「私が『ここがいいよ』と話すと、子どもは断れない」
野球少年を子に持つ保護者にとって、進路選択は悩みのひとつ。First-Pitch編集部では、「セレクトデザイン」と題し、チームや指導者の考え方を随時連載しています。ソフトバンクの柳町達外野手らプロもOBにいる茨城県の中学硬式野球チーム・取手リトルシニアでは、「進路について、子どもとはあえて直接話さない」という方針。石崎学監督が語る理由とは――。
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取手リトルシニアの進路相談の方法は、まずは面談です。ただ、子どもとはあえて話しません。私が「ここがいいよ」と言ってしまうと、嫌だと言えないからです。子どもの進路ではありますが、基本的には、決めるのは保護者だと考えています。
冷たい言い方になってしまうかもしれませんが、私は家庭の経済的なことまでは分かりません。大学、就職まで面倒を見ることができるなら、「ここに行きなさい」と伝えることができますが、そうはいきません。まずは保護者に「こういった高校から話がある」などの情報は事前にお伝えし、考えていただいて、その上で保護者が取捨選択して子どもと相談するのが1番だと思っています。面談の日に保護者から希望の進路を言っていただくようにして、私はその希望に沿って最大限動く形です。
私ができることは、正しい情報を伝えることです。例えば、部費以外にどれくらいお金がかかるのか、大学進学はどのくらいだとか。あとは付属校に行った時に、何割くらいが系列の大学に行けるのか。そういった情報は伝えます。選手の実力とレベルの差が大きい高校への希望であれば「背番号をもらうことは厳しいよ」ということも正直に話します。
各家庭の希望を聞いて、手助けをするのも私の仕事です。勉強面では、近くの塾に頼み、希望者を安い値段で受け持ってもらっています。また、大学に進学したOBに勉強の指導を頼んでもらうこともあります。
勧められないことは「学力を大幅に落として高校に行くこと」
1点だけ、進路指導でお勧めできないことがあります。学力を大幅に落として高校に進学することです。
学力だけでは届かない高校に、野球の推薦で進学できた。このケースは万々歳です。一方で、野球をやるからと、学力を落としてまで進学することはやめなさいと伝えます。人間は流される生き物なので、レベルの高いところに飛び込めば、自らを引き上げてくれます。
長く野球を続けたとしても、いずれは野球をやめる日が来ます。その時にペンを持ってアレルギーを起こすような子にはなってほしくないですからね。(川村虎大 / Kodai Kawamura)
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