女性起業家が北海道を変える!? けいナビ

今回は女性起業家についての話題。コロナ禍で勤めていた会社を辞めたり、これまでの生活を変えたりして起業する女性が増えている。ビジネスの現場でも性差がなくなるのが理想だが、起業という場においても、男性と比べて女性の比率はまだ低いのが現状。女性起業家の活躍と、支援する取り組みに注目する。

男性からの相談件数は減少傾向にある中、女性からの相談件数は増えているという

【なぜコロナ禍で起業?】

札幌市西区にある菜々倶楽部。代表の阿部由美子さん。仲間と2人で近隣の農家が栽培した野菜や惣菜を販売するほか、みそやキムチづくりの教室を開いている。

この日は、みそづくりの講座に2組の親子連れが参加していた。原材料は当別町産の大豆。当別出身の阿部さんのこだわりだ。当別産のおいしい大豆を知ってもらおうと、出前講座を始めた阿部さん。2年前に市内の別の店で活動を始めた。1年ほど前に、元は喫茶店だった今の場所にたどりついた。

委託を受け、本やアクセサリーも販売する。元々紳士服の販売会社に20年間勤務し、洋服の仕入れなどを担当していた阿部さん。なぜ起業に踏み切ったのか。阿部さんは「前の会社が民事再生で縮小した。会社は永遠に続くと思っていたが、ある日突然なくなることもあると体験し、自分で起業して辞めるときは辞めると、自分で決めたいと思った」と話す。

倒産という経験から、金融機関の融資を受けずに開業することにした。設備投資のための資金60万円は、アルバイトで賄った。家賃や光熱費は3人で分担、売り上げについては「すごく伸びているわけではないが、微増している」(阿部さん)と、黒字が続いているという。

ところ変わって、札幌・東区に去年10月オープンした「アニマルスペース39(ミック)」。フクロウやミーアキャット、ハリネズミ、モモンガといった“珍獣”を販売するペットショップだ。

代表の中島望さん。札幌市南区の体験型ふれあい動物園「ノースサファリサッポロ」に12年間勤務。長年動物の飼育係を務め副園長にまでなったが、去年起業を決意し、退職した。

動物を通じ人と関わりあえる仕事をしたいと思っていた中島さん。1年ほど前に退職、半年以上かけて店を構える場所を探した。中島さんは「ずっと起業しようと思っていた。コロナ禍で動物園がクラウドファンディングを行った時、たくさんの支援を受けた。こんなに助けてくれる人がいるなら、この会社に私はいなくていいと決心するきっかけになった」と話す。

開店のための費用は、約600万円。自己資金のほか、金融機関の融資も活用した。事業は順調に経過し、福祉施設や小学校などでの出張教室など、新たな取り組みも模索している。

【自治体や金融機関も支援!?】

岩見沢の中心部にある「空香(そらか)」。菓子やパンを製造し販売する。5年前に開店した。人気は岩見沢産の米粉を使ったグルテンフリーのエクレア。チョコやカスタード、ハスカップなど8種類あり、年間2万個ほど売れるという。岩見沢産の小麦を使ったパンや焼き菓子も並ぶ。

店を運営する矢島幸子さん。実は空香、障害者の就労支援のための施設だ。働く障害者は25人。健常者とともに商品を作るほか、接客も担当する。商品作りはプロのパティシエが指導する。

厚生労働省によれば、障害者の就労支援をする事業所の全国の平均賃金は約1万6000円。北海道は約1万9000円とやや高いが、それでも2万円に満たない。空香は平均を大きく上回る約3万円を支払っているが、障害者の自立には程遠いのが現実だ。矢島さんは「パティシエもかかわって一流の商品をきちんとした販路で適正な価格で売っていきたい。ちゃんと利益を出して障害がある方の経済的自立を支えるような仕組みを作らないと、ずっと低賃金のまま生きていくことになる」と話す。

三重県出身の矢島さん。北海道医療大学入学後に臨床心理士を目指すも、進路に悩んで専門学校に入り直し、精神保健福祉士の資格を取得。2007年に岩見沢に移り住み、障害者施設などで働き始めた。起業したのは障害者が自立できる環境を整えたいという思いからだ。2年前に障害者が生活するグループホームを設立。全国各地の百貨店の催事場でも商品を販売し、北海道内の大手スーパーのカタログにも掲載されるようになった。

コロナ下ながら、今期の売り上げは過去最高の約2700万円となる見通しで、数々の賞も受賞した。事業拡大を視野に入れる矢島さん。この日訪れたのは、地元の金融機関、空知信金。矢島さんとは開業前からの付き合いで、融資から設備投資まであらゆる相談に応じてもらっている。この日は新工場の建設について相談した。

空知信金の庭山賢之さん。矢島さんの会社を担当し3年目だ。起業後も事業が軌道に乗るよう、商談会の紹介や展示会への同行などアフターフォローを続ける。庭山さんは「創業したばかりの人は、販路が乏しかったり設備投入がしにくかったりと、いろいろな悩みを抱えている。預金、融資以外のところをいかに助けられるかが重要」と話す。

地元岩見沢市も起業支援の取り組みに力を入れる。市は、起業相談のための窓口やノウハウを伝える創業塾を設けている。倉田課長は「起業する人が増えることで、新たな店舗やサービスが生まれ、まちの魅力や雇用機械の拡充にもつながっている。起業をきっかけに岩見沢市に転居される人も少なからずいる。将来的にそういう人が増えれば、移住定住にもつながるのではないか」と話す。

千歳市内で開かれたセミナー。日本政策金融公庫と「じもじょき.net ちとせ」が共催した。「じもじょき.net ちとせ」は、市と地元の女性7人で構成する団体が4月に立ち上げた。起業に関心がある人材を掘り起こし、支援するのが狙いだ。空き店舗解消や市街地活性化も見込む。

セミナーに参加した、勝瀬さん。整理収納アドバイザーの資格を取り、去年起業した。依頼者の家庭を訪問し、片付けを手伝うという。金融機関からの借り入れは行わず、自宅を拠点に自己資金のみで開業することを目指し、月収8万円を見込むという。

オンラインで担当者がアドバイスを送る

セミナーでは、公庫の担当者が事業内容や、事業計画書の書き方を助言する。このように、起業を目指す女性たちを支えようという動きは各地に広がり、既に北海道7カ所に支援組織がある。2016年に設立された北海道女性起業家支援ネットワーク(通称:ほくじょき)もそのひとつ。札幌市男女共同参画センターが事務局を務める。

起業には“稼ぎ”が不可欠。理念や社会貢献を実現させつつ、稼ぎに繋げる支援も不可欠だ。
(2022年1月8日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)

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