明けましておめでとうございます。本年も“これだけはおさえたい 邦楽名盤列伝!”をよろしくお願いします。邦楽名盤が尽きるか、筆者の体力が尽きるまで頑張りたいとい思います。2022年最初の邦楽名盤は1月1日にニューアルバム『PHOENIX』をリリースしたばかりのEXILEから、その始まりの作品である『our style』を取り上げる。ダンスパフォーマンスあってのEXILEではあろうし、音源だけではその魅力を語ることはできない…と思いきや、本作だけでも彼らのスタイルが理解できるに十分な要素の詰まったアルバムである。デビューアルバムにはそのアーティストの全てがあると言う。『our style』もまたそういう作品である。
音楽シーンを一変させた偉人たち
EXILEが21世紀の邦楽シーンで欠かせない存在であることは言うまでもないだろうし、そのリーダーであるHIROが会長を務めるLDH JAPANは日本のエンターテインメントにおける最重要企業のひとつであることもまた議論を待たないはずである。2001年にメジャーデビューを果たしたEXILEがチャート首位を獲得したのは2003年2月発売の2ndアルバム『Styles Of Beyond』。同年12月には3rd『EXILE ENTERTAINMENT』が初のミリオンセールスを記録し、以後、何作も続けてミリオンヒットを続けた。[2008年12月、オリコン年間ランキングのアーティストトータルセールスで年間首位を獲得。また、6枚目のアルバム『EXILE LOVE』が年間首位を獲得。アルバムは年内に2作がミリオンセラーを記録しており、アルバム部門の全3部門で年間首位を獲得]したのだから、2008年の時点で完全に日本の音楽シーンの頂点に立ったと言っていいだろう。しかも、それはシングルを含めて売上枚数が100万枚を超える作品が[毎年1作から数作が出るか出ないかというペースとなった]以降の話であるからして、デビューから10年を待たずに絶対王者といった風格すら備えていた。また、前述の通り、LDH JAPAN は、EXILEのみならず、J SOUL BROTHERS(※説明不要だろうが、現在は三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)、GENERATIONS from EXILE TRIBE、E-girlsなどのプロデュースのほか、劇団EXILEを立ち上げたこともみなさんご承知のことだろうし、傘下に映画配給会社や飲食店運営会社を置くなど、他に類を見ないエンターテインメント企業に成長を遂げている。EXILEのデビューからものすごいスピードで成り上がってきた事実は驚異的と言ってと良かろう。
昨年12月に発売された月刊誌、文藝春秋が100周年記念企画として『100年の100人』のタイトルで、文字通り100人をコラムで紹介していた。音楽分野では、美空ひばり、オノ・ヨーコ、キャンディーズ、阿久 悠、筒美京平、ジャニー喜多川、桑田佳祐らが紹介されていたのだが、個人的にはそこにEXILE HIRO を加えても良かったのではないかと思う。自分は文藝春秋の編集権などあるわけもないので、これはほとんど妄想の類いの言いがかりではあるけれども、この20年間、音楽シーンにおけるプレイヤーの顔触れを一変させたと言っていいEXILEならびにLDH JAPANの功績は歴史に残るものではないだろうか。それまでにも歌って踊れるアーティストはあった。ジャニーズ事務所所属グループがその中心ではあったが(というか、ほぼジャニーズが独占していて、それゆえに…かもしれないけれど)、そのジャンルにおいて、少なくとも男性グループが大きくスポットライトを浴びることはなかった。まったくいなかったわけではないけれど、多くの人が知るところとなると、おそらく片手で足りるほどではなかっただろうか。そんな状況をブレイクスルーしたばかりか、今やLDH ASIA、LDH EUROPE、LDH USAなども設立して海外も視野に入れて事業展開しているのだから──個人的な想いとしては…と前置きするけれども──EXILEは奇跡のグループといっていい。EXILE HIROを平成の偉人と言っても神様は罰を当てないだろう(ここまでの[]はWikipediaからの引用)。
J-POPへの意識とヒューマニティ
EXILEを語る上で、その音源のことだけにしか触れないのは、飛車角落ち…とまでは言えないにしても、その魅力を伝えるには7掛け、いや、下手すると6掛け、5掛けなのかもしれない。ダンスパフォーマンスあってのEXILEである。そう思いながら『our style』を聴き始めたのだが、これが案外そうでもない。もちろんダンスが加わってパーフェクトになることは間違いないのだけれど、音源単体で聴いても十分に楽しめる作品であることはもちろん、本作を聴くことでEXILEがダンス&ヴォーカルグループであることがよりはっきりするような印象を受けた。その辺を塗り絵に喩えたらかなり語弊があるかもしれないが、主線でフォルムが分かるだけでなく、空白に乗る色までもが想像できると言おうか。音源だけでは足りないことは足りない。しかしながら、その足りないことも含めてリスナーに余地を与えたアルバム。そんなことが言えるのではないだろうか。以下、その詳細を述べる。
まず、主旋律とそれを司るヴォーカリゼーションについて。その音楽性をジャンル分けすればダンスミュージックであり、コンテポラリR&B;となるだろう。さらに大枠で言えばJ-POPとなろう。そこが大きなポイントだと思う。ヒップホップ由来のループするビートと短いメロディをベースとしながら、ヴォーカルはフェイクを加えたり、スキャットを用いたりして歌われる。比較的ハイトーンでファルセットも少なくない。大雑把に言えばそれが当代のR&B;の特徴で、『our style』収録曲もそこに準拠していると言っていい。しかしながら、本場米国のそれに比べ、明らかにフリーキーさが低いというか、歌メロをしっかり歌っている印象が強い。サビはしっかりキャッチーであって、しかもAメロ、Bメロに続いてサビが出て来るという王道の展開がほとんどだ。とりわけJ-POPらしさを強く感じたのは、Cメロ(≒大サビ)の存在と、後半での転調。個人的に印象的だったCメロはM4「fallin'」とM13「VIOLATION」、転調はM7「それが僕だから」とM14「Your Eyes Only」だ。歌メロをつるべ打ちにすることで、ループミュージックにもかかわらず、楽曲をドラマチックに仕上げている。この辺にEXILEの大衆性の秘密があるのだと思う。歌のフェイクにしても、概ねCメロが終えてから出現することが多く、それが多用されるのはラストのサビ周辺だ。そのことからも、EXILEは最初期から単にコンテポラリR&B;を標榜するのではなく、日本のマーケットを意識したR&B;をやろうとしていたことが想像できる。
サウンド面で特徴的に感じたのは、ギターの生音が多いことである。全体を通して見れば、やはりデジタル音が中心であって、ほとんどそれが占めていると言っていいし、それゆえにビートは常にジャストに鳴らされている。その辺のシャープさはM6「D・T・B」やM9「MAX TRIBE(Inst.)」で見て取れる。特にM9でのSF感はデジタルミュージックならではのものだろう。ただ、そこだけに終始していないのが『our style』であり、EXILEの音楽であるようだ。ギターはM4「fallin'」、M5「eyes in maze」、M8「Style」、M10「nobody else」、M11「Feel the Conflict」、M12「こんなにもながい君の不在」、M14「Your Eyes Only」といった辺りで目立つ。中でも特に印象に残るのはM5、M8、M11でのスパニッシュな響きだ。M5、M11は作編曲を手掛けているのが横山輝一なので氏の好みなのかとも思ったが、28thシングル「The Birthday 〜Ti Amo〜」(2008年)でもラテンフレイバーを全開にしているほか、EXILEにはそれら以外にもラテンポップがあるようなので、この辺のサウンドはグループとして得意としているものではあろう。正直言ってEXILEとラテン、スパニッシュとの関係にどんな因果があるのか、軽くググっただけでは分かるはずもなかった(これをお読みの方で何かご存知の方がいらっしゃれば、補足していただけると助かります…よろしくお願いします)。だが、このラテンフレイバーはEXILEにセクシーさを加味していることは間違いないし、それ以外のギターの音色も楽曲に、ある種の熱を注いでいることも確実だろう。デジタルでのシャープさにヒューマニティを加えていると言ってもいいだろうか。それもまたEXILEがヴォーカルのみのグループではなく、ダンス&ヴォーカルグループであるからだと邪推する。彼らの楽曲には生身の人間が踊るパフォーマンスが必ず付随しているからこそ、楽器の演奏にも一定のアナログ感(?)というか、人間が弾いている感覚が必須であって、そこでのケミストリーを考えた上のギターサウンドの注入ではないだろうか。
ダンスが必ず付随していると言えば、『our style』収録曲には、明らかにダンスパートを意識した構成がある。これは最大の特徴と言ってもいいだろうし、改めて言うまでもなく、誰もが知るところではなかろうか。間奏にそれがある。M2「Fly Away」、M6「D・T・B」、M11「Feel the Conflict」、M13「VIOLATION」辺りが顕著だろう。間奏をメロディーではなく、ビートで攻めている。M11は前述したスパニッシュギターが入っているし、M13もそうで先に述べたCメロがあるものの、それぞれそれらが終わったのちにダンスパートが用意されている。今回、映像まではチェックしなかったのでそこで誰がどんなふうに踊っているのかまでは確認しなかったけれども、そんな自分でもそこでパフォーマーが活き活きとダンスしている様子が容易に想像できる。EXILEのファンやライヴの体験者であれば、そこでは誰がどんなパフォーマンスをしている様子が脳裏に映るのではなかろうか。冒頭で“空白に乗る色までもが想像できる”とか、“足りないことも含めてリスナーに余地を与えた”とか述べたのはそこである。そこはポップス、ロックとしては若干異様と言えるかもしれないが、EXILEが邦楽シーンに示したブランニューなスタイルと言うことができるはずだ。
自らのスタンスがあふれたリリック
さて、最後に『our style』収録曲の歌詞について。EXILEの音楽ジャンルはコンテポラリR&B;だと述べた。当世R&B;と言えば、そのリリックはラブソングと相場が決まっている。何の確証もなく断定したが、それもそれほど大きな間違いはなかろう。日本でもスウィートな愛の囁き(ロストラブソングを含む)などが多いそうだし、米国ではダイレクトなセックスソングも少なくないと聞く。『our style』にもラブソングと思しきものはある。M4「fallin'」、M10「nobody else」、M12「こんなにもながい君の不在」、M14「Your Eyes Only」、M15「Follow Me」辺りがそうだろう。だが、それ以外の歌詞に関しては完全にラブソングと識別できないばかりか、明らかに恋愛ものではない作りが多いのだ。
《結果(こたえ)を恐れて 指をくわえてないか?/見てるだけじゃなにひとつ 変えられやしないさ》《Feel it! ほしいものと 似合うものは/確かに違うこともある/けれどできるだけのことを/やり尽くしたの?》《できるわけがないよ、届くわけがないよ/なにもしないうちから 決めつけてやしないか?》《こみあげてくる 胸の鼓動がいま/抑えきれないくらい熱くなる/冗談じゃないよ ぼくの未来さ/この手で描いていく》(M3「Heat Beats」)。
《たった一度だけでいい/自分に納得したいだけ/カッコなんてどうでもいい/今度だけはまけたくないよ》《いまは何が正しいのか わからないけど Oh》《まだ逃げそうになる/限られた時の中/期待してるだけじゃ/理想のカタチ近づけやしない》《悩んだ日々は 決してムダにはしない Oh》(M5「eyes in maze」)。
《飛び交うエゴに振り回されて/ウンザリでも 運命だけは逃げたくない》《Do The Basic 戻れ原点まで/脇目ふらず駆け抜けた頃に/Do The Basic 弾みつけたら/Game again and we gonna be alright》《永遠に続く魂のRACE/限界でも 本能だけは止めたくない》《Do The Basic 急がば回れ/突破口はそうさ自分自身の中に/Do The Basic 覚悟できたら/Game again and we gonna be alright》(M6「D・T・B」)。
《なんだってそう 欲しけりゃ賭けなきゃかなわない》《いまここにある想いが/それを越えたなら/臆病になる弱さを/越えたらできるさ》《揺れながら 迷いながら/誰も生きている/けど答え決めることは/君しかできない》(M11「Feel the Conflict」)。
《ジョウシキ、だとか/タテマエ、だとか/縛りばかり多いけど/それで全てが/流れてるなら/いまの世の中矛盾だらけさ》《時にはうまくすりぬけ/時には破り捨てても/かまわない覚悟がなきゃ/そう 何もできない》《Breakin' rules so/そんなヤツラはざらにいるだろ?/すました顔してながら/その裏で嗤ってる/Break a rule why?/そんな目をして見たりするなよ/イヤなら好きにすりゃいい/降りてくれ 一人きりでもやる》(M13「VIOLATION」)。
リスナーへのメッセージであるばかりか、社会全体への提言でもあるようだし、何なら自らの姿勢を見つめ直し、士気を鼓舞している内容と受け取ることもできる。そう考えると、『our style』というアルバムタイトルにも納得というか、初期EXILEの心意気を凝縮したものととらえられる。今回、本作を聴いて、EXILEはそれをまさに有言実行したことを改めて理解したし、日本の芸能に金字塔を打ち立てたそのすごさをダメ押しされたような想いだ。
TEXT:帆苅智之
アルバム『our style』
2002年発表作品
<収録曲>
1.J Soul Brothers(Inst.)
2.Fly Away
3.Heat Beats
4.fallin'
5.eyes in maze
6.D・T・B
7.それが僕だから
8.Style
9.MAX TRIBE(Inst.
10.nobody else
11.Feel the Conflict
12.こんなにもながい君の不在
13.VIOLATION
14.Your Eyes Only
15.Follow Me
16.SILVER COCKPIT(Inst.)