<北朝鮮内部>過激化する人民統制(3)外国映画観た14歳中学生を教室で手錠かけ連行 20余名逮捕の大事件に

(参考写真)検問所で荷物や通行証をチェックする保衛省の兵士。2013年10月北部地域にて 撮影アジアプレス

北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市で、外国映画を観たとして、授業中の教室から男子中学生が手錠をかけられて連行される事件があった。関連して20余名が拘束され即決の重刑に処された模様だ。(カン・ジウォン)

◆米国の「サメの映画」か

事件があったのは2021年11月。韓国の北朝鮮専門メディアの「デイリーNK」が11月30日に中学生逮捕の第一報を報じた。アジアプレスで追加調査を行った結果、逮捕されたのは恵山中学校に通う14歳の男子生徒で、4人の取締官が授業中の教室に入り手錠を掛けて連行して行ったことが分かった。

学校に逮捕に赴いたのは「非社会主義・反社会主義掃討作戦連合指揮部」の要員3人と社会安全員(警察官)1人だった。2021年12月末時点で、この事件に連座して、映像を配布・販売した人や、他の中学生合わせて22人が逮捕されたという。

両江道に住む複数の取材協力者の調査によれば、生徒らが観たのは「米国のサメの映画」だという。2018年制作の「メガロドン」か70年代制作の「ジョーズ」の可能性がある。新型コロナウイルス遮断のために中国国境が封鎖されて以来、新作の韓国ドラマの流入が途絶え、数年前に流行った旧作を観たことが発覚したという。

「恵山市では事件の情報が瞬く間に広がり知らない者はいないはず。なぜなら、当局が今回の事件を不法映像視聴処罰の見せしめとすることを決め、機関や企業で講習を開いて事件の経緯と処罰を公にしたからだ」

協力者の一人はこのように伝えてきた。

衝撃的だったのは、中学生を教室で手錠をかけて連行したことだけでではない。逮捕から間もなくして重刑に処されたことだ。別の協力者は次のように伝えてきた。

「学校内から連行された生徒の他、数分を観ただけの中学生や大人も逮捕された。当局の説明によれば逮捕された22人のうち6人が無期懲役になった。『一場面でも観た者は全員逮捕せよというのが取り締まりの方針』なのだそうだ」

重刑を受けたのが中学生なのかははっきりしない。北朝鮮でも中学生の犯罪は「少年教養所」(少年院)送致が原則なので、映画の流布や販売に関係した成人に重刑が下された可能性が高いのではないか。

重刑は「反動思想文化排撃法」が適用されたものだろう。「南朝鮮の映画、動画、図書、歌、絵、写真などを直接観たり保管したりした者は5年以上15年以下の懲役刑、流入・流布させた者は無期懲役または死刑」と条文にある。制定と施行は2020年12月だ。

「いったい外部の情報がどれだけ怖くてこんな酷い取り締まりをするのだろうか。人民の眼と耳を塞げば統治が楽になると考えているのだろう。観たという映画(巨大サメの作品)は政治的には何の問題もないのに、なぜ厳しく取り締まるのかという声が多い」

衝撃的な事件について、協力者の一人はこのようにコメントした。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

※訂正します。
中学生が教室から連行された事件を2020年11月としていましたが、2021年11月の誤りでした。訂正いたします。

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