ロシアの伝説的な作曲家・ピアニスト、ラフマニノフの名曲10選!

セルゲイ・ラフマニノフは、ロシアの伝説的な作曲家・ピアニストである。「ピアノ協奏曲第2番」を含むラフマニノフのベスト作品をご紹介する。

セルゲイ・ラフマニノフ(1873年4月1日-1943年3月28日)は、ロシアの伝説的なロマン派の作曲家、ピアニスト、指揮者である。ラフマニノフの音楽は、壮大なメロディ、名人芸的なピアニズム、明晰なオーケストレーションが特徴である。モスクワで学んだ彼は、まずコンサート・ピアニストとして活躍したが、若くして作曲家としても天才的な才能を発揮し、10代のうちに作曲した嬰ハ短調の前奏曲や1幕オペラ《アレコ》で、師であるチャイコフスキーを圧倒した。

ショパンとリストからの強い影響は明らかだが、彼の作品のほとんどはチャイコフスキーに似た後期ロマン派のスタイルである。彼の主要作品には、4つのピアノ協奏曲、3つの交響曲、2つのピアノ・ソナタ、3つのオペラ、合唱交響曲、晩課、パガニーニの主題による狂詩曲、41の前奏曲とエチュード、交響的舞曲と多くの歌が含まれる。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、ピアノ・レパートリーの中でも最も優れた作品の一つとなっている。

ラフマニノフのベスト作品:偉大な作曲家による10の重要な作品

ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18

交響曲第1番の初演が失敗に終わった後、ラフマニノフは約3年間、ほとんど何も作曲しなかった。やがて彼は催眠療法士ニコライ・ダーリに助けを求める。ラフマニノフのカムバック作品となったピアノ協奏曲第2番は、ダーリに捧げられた。ピアノのレパートリーの中で最も偉大な作品の一つとなったこの協奏曲は、ピアノの和音が徐々に強く奏でられながら始まり、その後、ヴァイオリンとヴィオラがゆっくりと美しいメロディを奏でる。

最も静謐な緩徐楽章(映画『逢びき』で有名になった)ではピアニストと木管楽器のソリストがメロディを担当している。フィナーレは花火を思わせる非常に技巧的な音型で始まるが、この楽章でラフマニノフはすぐに別の有名な大ヒットにつながる部分を作っている。このメロディーを基にして、フランク・シナトラやサラ・ヴォーン、ボブ・ディランなどが録音した「Full Moon and Empty Arms」という曲が生まれ、ヒットチャートにランクインしている。

<動画:Rachmaninoff: Piano Concerto No. 2 in C Minor, Op. 18 - II. Adagio sostenuto

チェロとピアノのためのソナタ ト短調 Op.19

前作であるピアノ協奏曲第2番(Op.18)の成功後、ラフマニノフは創作活動に没頭した。この素晴らしいチェロ・ソナタは、ピアノ協奏曲第2番が自信を持って初演された直後に登場したもので、その幻想的な「アンダンテ」は、前作の「アダージョ」に似ているところがある。しかし、このソナタでは、音楽は安らかではなく、希望と絶望の間で微妙に揺れ動いているように感じられる。

ラフマニノフは、友人である(ラフマニノフの挙式では新郎付き添い役も務めた)アナトーリー・ブランドゥコーフのためにチェロ・パートを作曲した。チェロはほとんど始めから終わりまで激しいメロディで書かれ、このソナタの長大な第1楽章は、歌心のあるチェリストにとっての贈り物のような作品だ。しかし、ピアノ・パートは悪魔のように難しい。どんなチェリストでもこの作品を取り上げる時は才能ある伴奏者を見つける必要があると考えるだろう。

10の前奏曲 Op.23

ラフマニノフは、それぞれの長調と短調のために24曲から成るピアノの前奏曲を作曲した。有名な嬰ハ短調の前奏曲は1892年に最初に発表され、11年後にはOp.23の全曲が、そして1910年には最後の13の前奏曲が発表された。

Op.23の10曲から成る前奏曲は曲の雰囲気の幅が広い。神秘的な開始と、ショパンを思わせる憧れに満ちた第4番に加えて、豪快な第2番、繊細な指さばきが要求される真剣勝負の第7番などがある。

第9番の強迫観念的な旋律の後、第10番の最後の前奏曲で穏やかに幕を閉じる。最もよく知られているのは第5番で、アンコールとしても人気がある。この前奏曲の外側のセクションは初めに聴かれる活発なマーチのリズムに支配されている。対照的な中央のセクションは再びピアノ協奏曲第2番のような大きな曲を思い出させる。

交響曲 第2番 ホ短調 Op.27

ラフマニノフの交響曲第2番の初演は、交響曲第1番の大失敗の舞台となったサンクトペテルブルクで行われた。しかし今度の場合は、交響曲第1番のときのように酔っ払ったグラズノフではなく、ラフマニノフが指揮台に立ったことで計画通りに事が運び、彼の最高傑作の一つであるこの交響曲は、聴衆の人気を集めることになった。

この曲のハイライトは運動性の高い「スケルツォ」で、中央のフガートでは弦楽器が必死にお互いの尻尾を追いかけるような目まぐるしい展開がある。緩徐楽章は宝石のようであり、オーケストラのレパートリーの中でも最も素晴らしい(そして最も長い)クラリネット・ソロが登場する。フィナーレはすぐにカーニバルの雰囲気を確立するが、いつものように、ラフマニノフは別の叙情的なテーマのためにテンポを落とすことも楽しんでいる。

死の島 Op.29

死の島は、ギリシャ神話に登場する死者の渡し守であるカロンが棺を漕いで不気味な島に渡っていく様子を描いたアルノルト・ベックリンの油彩画から着想を得ている。このラフマニノフの交響詩は、カロンのオールが水を引く様子を表しているのか、8分の5拍子による音型が繰り返されて開始する。

その上には、「怒りの日(Dies Irae)」の定旋律の断片が聞こえてくる。この不吉な「怒りの日」のテーマはカトリックのレクイエム(死者のためのミサ)に伝統的に含まれているもので、ラフマニノフの音楽でよく使われている。冒頭部分は明らかに死をテーマにしているが、ラフマニノフは、より自由な中間部分は生の考察だと主張している。「生」の音楽は着実に苦しみを増し(ここで聴き手自身の物語を作り上げていく)、「怒りの日」が戻ってくる前に渡し守は仕事を終えて去っていく。

ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 Op.30

ラフマニノフがアメリカでの公演のために書いた協奏曲で、船で横断している間、音の出ない鍵盤を使ってピアノ・パートの練習を仕上げたといわれている。このピアノ協奏曲第3番は、第2番と同じ作曲家の作品であることは明らかだが、より長く、より激しく、演奏するのはさらに困難なものである。

冒頭のピアノの旋律はある程度ゆったりとしているが、いつの間にか火花が散り始める。第1楽章の後半には、非常に複雑なカデンツァが用意されている(ラフマニノフは2つのヴァージョンを用意した)。緩徐楽章は、第2番の協奏曲の緩徐楽章よりもはるかに暗い。この曲では、何度かピアノによる怒りの爆発があり、最後には悪魔のように速いワルツが登場する。フィナーレは理不尽なほど難しく、これを正当なものにするには、ラフマニノフやアルゲリッチでないと無理なのではというほどの難易度である。

ヴォカリーズ Op.34, No.14

ラフマニノフの作品34は、声楽とピアノのための14の歌曲で構成されており、第1番から第13番までは、ロシアの著名な詩人たちのテキストが採用されている。一方で、《ヴォカリーズ》は、言葉を使わず、演奏者が同じ母音をずっと歌い続ける。ラフマニノフの最高傑作の一つである、この言葉のない歌は、数え切れないほどの作曲家や演奏家の注目を集め、ヤッシャ・ハイフェッツのヴァイオリンから「ガンズ・アンド・ローゼズ」のスラッシュのエレクトリック・ギターまで、考えられるほぼすべての楽器のために編曲されてきた。

その中でも特に有名なのが、作曲家自身による編曲である。ラフマニノフによるオーケストラ編曲では、このメロディはほとんどがヴァイオリンで演奏されており、終盤ではクラリネットが代わりに演奏し、ヴァイオリンは高らかに新しいメロディーを奏でる。

鐘 Op.35

ラフマニノフの優れた合唱交響曲は、エドガー・アラン・ポーの詩をロシア風にアレンジしたものである。この詩は4つのセクションに分かれており、それぞれ誕生、結婚、恐怖、死に焦点を当てている。また、これらの人生経験は、銀、金、真鍮、鉄といった鐘の種類と関連しているのだ。

第1楽章では、ラフマニノフは高速でそりを走らせ、若さの輝きを描く。ゆったりとした第2楽章(甘美な結婚式の鐘)では、ソプラノのソロが幸せなカップルの平和な未来を予言する。この雰囲気を一掃するのが、ラフマニノフが合唱団を限界まで追い込んだ、容赦ない恐怖を描写する第3楽章である。第4楽章は、死についての瞑想である。弦楽器が上行音型を奏で、長和音が穏やかに配置されているため、基となったポーの詩よりも救いのある終わり方をしている。

徹夜祷 Op.37

ロシア正教の徹夜祭を題材にしたこの曲は、無伴奏合唱とテノールとアルトのソリストのために作曲されている。ラフマニノフは15楽章のうち9つの楽章で、伝統的な正教会のシンプルな単旋律の聖歌を使用した。しかし、その豊かなハーモニーは、すべて作曲者自身のものである。彼は合唱のために非常に自由な作曲をした。ある部分では彼は合唱パートを最大11パートに分け、ある部分では、歌ではなくハミングを要求したりもしている。

この楽譜の特別な美しさを知るには、ラフマニノフが自分の葬儀で演奏されることを望んだ第5楽章を聴いてほしい。この楽章では、合唱が歌う完璧に選ばれたハーモニーの上で、テノールのソリストがウクライナの聖歌をベースにした魅惑的なメロディを歌う。最後の2、3小節では、バス・パートが信じられないほど低い変ロ音まで下がるのが有名だ。ラフマニノフの周りには優秀な歌手がいたのだろう。

パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43

パガニーニのヴァイオリン曲《24の奇想曲》の最後の曲は、ブラームス、リスト、ルトスワフスキ、シマノフスキなど多くの作曲家や、ベニー・グッドマン、アンドリュー・ロイド=ウェバーなどの音楽の基礎となっている。ラフマニノフが仲間の作曲家・演奏家に捧げた作品は、ピアノとオーケストラのための変奏曲で、ラフマニノフの最高傑作の一つだ。

全部で24の変奏があるが、数えてみると、第1変奏が主題の前にあることに気がつく。この作品も「怒りの日」が大きな役割を果たしている。第7変奏ではピアニストが聖歌を奏でるが、その間オーケストラはパガニーニの音楽を継続する。作品の中心にあるのは、テーマのゆっくりとした反行形(上下を反対にしている)に基づいた、壮大な第18変奏である。最後の6つの変奏は、ピアニスト、オーケストラ、そして聴衆にとってスリリングなものとなっている。

おすすめの録音

『ラフマニノフ:終着点 – 出発点(Destination Rachmaninov: Departure)』
ダニール・トリフォノフ演奏による、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番と第4番が収録されている。本ディスクは「BBCミュージック・マガジン・アワード2019」でコンチェルト賞を受賞した。

「トリフォノフはおそらく過去30年間に国際的に登場した最もエキサイティングなピアニストであり、今日ではラフマニノフの解釈者として比類のない存在である…これは今年の優れたリリースの一つだ」 – アンドリュー・クレメンツ、『ガーディアン』誌

ダニール・トリフォノフが演奏する『ラフマニノフ:終着点 – 出発点(Destination Rachmaninov: Departure)』は発売中だ。

Written By uDiscover Team

___
■リリース情報

2018年10月13日発売
ダニール・トリフォノフ『ラフマニノフ:終着点 – 出発点』

© ユニバーサル ミュージック合同会社