海洋散骨、葬祭会社の「お見送り」に同行した 急拡大の背景に墓じまいも

神奈川県沖で海に散骨し、手を合わせる葬祭会社の渡辺悟さん=2021年12月

 故人を弔うため、海に遺骨をまく「海洋散骨」。ここ数年で急激に増え、業界団体の推定では年間1万件を超えた。ただ、映画やドラマで見たことはあっても、実際に立ち会ったという話はあまり耳にしない。どのように実施されているのか。記者が葬送のプロによる散骨の現場に同行すると、「お見送り」が丁寧に行われていた。(共同通信=三吉聖悟)

 ▽花びらを海面に散らす

 2021年12月12日午前、横浜市の横浜ベイサイドマリーナから、埼玉県を中心に葬祭業を手掛ける「セレモニーグループ」の社員らが小型船で出航した。師走にしては暖かく風も穏やか。岸壁で釣り糸を垂らしている人たちの姿が見えた。今回は60代~90代で亡くなった5人の代行散骨で、遺族は乗船していない。遺族が乗る場合は別の船着き場まで迎えに行くという。

海洋散骨に使われた小型船

 大塚広規船長(64)が運航するこの船にはソファやトイレがあり、船上パーティーもできる仕様。揺れを制御する装置も備えている。

 40分ほどして神奈川県横須賀市の沖合約1キロの目標海域に着いた。ここまで来れば、陸地からは何をしているかはっきり視認できない。散骨担当の佐野篤史さん(45)はまず、故人のネームプレートと白い紙袋をデッキのテーブルに並べ、写真を撮影した。紙袋は大学ノートほどの大きさで、パウダー状に処理された遺骨が入っている。

遺骨を入れた紙袋とネームプレートを写真撮影する葬祭会社の佐野篤史さん

 写真は、後で遺族に渡す散骨証明書に載せる。背景に東京湾の入り口に突き出す観音崎が映り込んでいるため、遺族は散骨場所がどこか分かるようになっている。証明書には衛星利用測位システム(GPS)で測定した座標も記載される。

 続いて同僚の渡辺悟さん(53)が紙袋を受け取った。「ありがとうございました」と故人に感謝の言葉を伝えながら海に投じると、紙袋はぼしゃんと小さな音を立て、群青色の海に吸い込まれていった。環境へ配慮し、遺骨を入れる紙袋は水溶性だ。

 

海に散骨する渡辺さん

 他の4袋も同じように写真撮影と弔いをする。最後はひとつかみ分の花びらを海面に散らし、鐘を鳴らす。小型船は辺りを周回した後、帰途に就いた。

 ▽帰りはほっとする遺族たち

 セレモニーグループによる海洋散骨は、今回のような代行散骨だけでなく、家族が乗船して同行し、自ら遺骨を海に投じることもできる。料金は粉骨代を含めて「代行」は9万9千円。「同行」は16万5千円から人数に応じて増額する。

 ここ数年は家族の同行が増えているが、新型コロナウイルスの感染拡大で一度に乗船させる客数を通常の半数程度である5、6人に抑えている。

 佐野さんはこれまでに100人ほどの海洋散骨をした。「行きはお客さまも神妙な顔つきで言葉数が少ないですが、帰りはほっとされているようです。散骨は葬送の一部なので、代行で預かる際は『海が見える場所でお参りしてください』とお願いしています。海はつながっていますから」

 グループが大切にしているのは「お客様の安全」という。海上の気象状況が分かるアプリを参考に、風が強くなりそうな場合は延期する。

目標海域に向かう船

 散骨は1991年、NPO法人「葬送の自由をすすめる会」(東京)が神奈川県沖で実施したのを契機に各地に広がった。急拡大の背景には、テレビの情報番組などで海洋散骨の認知度が上がったこと、「自然にかえる」のを望む人が多いことに加え、「墓じまい」が増えていることも考えられる。少子化の影響で墓参りをする人が減少し、子や孫らに負担をかけたくないといった理由から、墓じまいは広がった。

 ▽ついにハワイでも可能に

 厚生労働省の研究会が20年に実施した意識調査では、自身や身近な人で「散骨の経験がある」と回答した500人に理由を尋ねた(複数回答)。半数超の53・4%が「故人の希望」と回答。「故人が希望し、散骨の団体・事業者に参加や代金を前払い」も11・8%で、多くの人が故人の遺志を尊重した実態が浮かぶ。

 

 一方で28・6%は「分からない、覚えていない」とした他、7・0%が「低廉な費用」を挙げた。経済的な観点で行った可能性もうかがわせた。

 需要の高まりを受け、受け皿も多様化している。葬祭会社や専門業者のほか、最近は大手旅行会社も参入。20年12月には旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が東京湾や相模湾に加え、ハワイでも可能とするプランの提供を開始した。HISは「新型コロナが落ち着き、海外渡航者が増えた際は、他社が取り扱っていない国での展開も考えている」としている。

 和歌山県美浜町は19年11月から、町の沖合での散骨サービスをふるさと納税の返礼品にしている。

 海洋散骨には一方で、考えなければならない点もある。事業として始めるのに国の許認可は必要なく、全ての社が丁寧な散骨をしているとは限らないことだ。

 ▽広がる懸念「止めるすべがない」

 散骨の普及を踏まえ、厚生労働省の研究会は21年3月、散骨による周辺環境への配慮を念頭に「海岸から一定の距離以上離れる」「焼骨は粉状に砕く」などと定めたガイドラインを策定。乗船する遺族らのため、ライフジャケットの準備など安全措置を講じるよう求める通知も関係先に出された。

 しかし、このガイドラインにも法的拘束力はない。死者の尊厳を重んじないやり方のほか、一般の人の心情や日常生活への配慮を欠く行為、船の事故なども懸念されている。

 例えば河川や堤防から海にまいている業者がいたとしても、とめるすべがないのが実情だ。自治体によっては、風評被害や住民感情を考慮し、散骨できる場所を制限するといった一定の規制をかけるケースもある。           

 

日本環境斎苑協会の喜多村悦史理事

 厚労省の研究会で代表を務めた日本環境斎苑協会の喜多村悦史理事は「葬送はそれぞれの文化と密接につながっている。インドだと川に流すし、遺体を鳥に食べさせる地域もある。国際化が進み、日本にいろいろな国の人たちが入ってきたとして、隅田川に流しても良いとなるか。自由にすべきだという人もいるだろうが、そうではなくて、『郷に入れば郷に従え』というのがポイントだ」と指摘する。

 散骨を墓地埋葬法に盛り込むなど、公的な規制をかける必要性も強調する。「葬送にはおのずから倫理がある。納骨堂、樹木葬と埋葬の方法は多様化しているが、一般の人が納得できるやり方でなければならない。ずさんなやり方をする業者が出てくるのが一番良くないので、許可制にし、変なことをすれば取り消せばいい」

© 一般社団法人共同通信社