貸切バス業の倒産が30年間で最多の14件、すべてコロナ関連倒産(2021年)

 2021年の「貸切バス業」倒産(負債1,000万円以上)は14件(前年比27.2%増)で、1992年以降の30年間で最多を記録した。貸切バス業で倒産した14件は、すべて『コロナ関連倒産』だった。長引くコロナ禍でインバウンド需要が消失し、国内旅行の激減が貸切バス業界を直撃したことを示している。
 日本政府観光局によると2020年の訪日外国人は前年比87.1%減の411万5,828人だった。2021年も11月(推計値)までで前年同期比94.2%減の23万3,800人と激減、インバウンド需要は消失し、個人客や修学旅行などの団体旅行も自粛や人の移動制限で縮小。このため、小規模の貸切バス会社ほど、激変した環境に対応できず業績不振に拍車をかけた。
 資本金別では、14件すべて資本金1億円未満だった。また、従業員数別でも10人未満が8件(構成比57.1%)を占め、小規模の事業者ほど深刻な経営悪化に苦慮している。
 2021年9月末で緊急事態宣言などが全面解除された。だが、再び新型コロナ変異株の感染が広がり、政府は「Go To トラベル」について、当面の先送りを示唆した。
 コロナ関連の支援効果が薄れるなか、燃料価格の高止まりや人手不足など貸切バス業界を取り巻く環境は厳しさを増しており、今後は倒産に加えて、廃業も懸念される状況になってきた。

  • ※本調査は、日本産業分類の「一般貸切旅客運送業」(貸切バス業)の2021年(1-12月)の倒産を集計、分析した。

過去最多の倒産14件は、すべて『コロナ関連倒産』

 2021年の「貸切バス業」倒産は14件(前年比27.2%増)で、1992年以降の30年間では2013年(12件)を抜き、最多件数を記録した。
 2021年の「貸切バス業」倒産の14件は、すべて『コロナ関連倒産』だった(前年5件)。コロナ禍でインバウンド需要が消失し、国内旅行も激減した影響が貸切バス業界を直撃した。
 主な倒産では、あじさい観光(株)(大阪府、負債5億円、1月破産)は、コロナ禍で訪日外国人の入国制限に加え、旅行自粛で業績が悪化。資産処分や助成金を利用したが、資金繰りが限界に達した。(株)中部観光サービス(沖縄県、同2億7,000万円、2月内整理)は、観光客を対象に展開していたが、コロナ禍で利用客が激減し事業継続を断念した。(株)蔵商(埼玉県、同2億600万円、12月破産)は、学校・自治体などを中心に営業を展開していたが、コロナ禍で売上が激減。介護タクシー運営に注力し、貸切バス車両への除菌システム設置などの投資も行ったが、受注は回復せず、事業継続が困難になった。

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【原因別】『不況型』倒産が9割超

 原因別の最多は、「販売不振」の12件(前年比100.0%増、前年6件)で、前年から倍増した。構成比は85.7%で、前年(54.5%)より31.2ポイント上昇した。このほか、「事業上の失敗」と「既往のシワ寄せ」は前年と同件数の1件だった。
 『不況型』倒産(既往のシワ寄せ+販売不振+売掛金等回収難)は13件(前年比85.7%増、前年7件)で、構成比は92.8%に達し、前年(63.6%)より29.2ポイント上昇した。
 インバウンド需要の消失や国内での人の移動制限が、販売不振に直結したことを示している。

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【形態別】破産が9割超

 形態別は、「破産」が13件(前年比30.0%増、前年10件)で最も多かった。構成比は92.8%で、前年(90.9%)よりも1.9ポイント上昇した。
 一方、再建型の「会社更生法」はゼロで、1992年以降の30年間で発生はない。「民事再生法」も2014年以降、8年連続でゼロだった。
 小規模倒産が主体で、長期化するコロナ禍で先行き見通しが立たず、再建型の倒産ではなく、事業継続を断念する消滅型の「破産」の選択が圧倒的に多い。

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【資本金別】14件すべてが1億円未満

 資本金別は、最多が「1千万円以上5千万円未満」の6件(前年比20.0%増、前年5件)で、倒産に占める構成比は42.8%(前年45.4%)だった。
 次いで、「1百万円以上5百万円未満」が4件(前年ゼロ、構成比28.5%)。
 そのほか、「5百万円以上1千万円未満」が3件(前年比25.0%減、構成比21.4%)、「5千万円以上1億円未満」が1件(前年ゼロ)。1億円以上はゼロで、2016年以降、発生していない。

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【負債額別】2016年以降、10億円以上の倒産はゼロ

 負債額別は、1億円未満が8件(前年比11.1%減、前年9件)で、倒産に占める構成比は57.1%(前年81.8%)だった。内訳は、「1千万円以上5千万円未満」が5件(前年比16.6%減、前年6件)、「5千万円以上1億円未満」が前年と同件数の3件だった。
 「1億円以上5億円未満」は5件(同150.0%増、同2件)で、30年間で最多となった。「5億円以上10億円未満」は1件(前年ゼロ)で、6年ぶりに発生した。
 10億円以上の大型倒産はゼロで、2016年以降、発生していない。

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【従業員数別】10人未満が5割超

 従業員数別は、最多が5人未満の5件(前年比66.6%増、前年3件)。また、5人以上10人未満は3件(同25.0%減、同4件)だった。
 10人未満は8件(同14.2%増、同7件)で、倒産に占める構成比は57.1%(前年63.6%)と、5割超が小規模企業だった。
 一方、50人以上はゼロで、2016年以降、6年連続で発生していない。

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