極寒のロシア極東で日本技術の温室野菜が人気 多少高くても安全な野菜を志向

ロシア・サハ共和国ヤクーツク郊外の温室で栽培されるキュウリ(共同)

 冬は極寒となるロシア極東で、日本の技術を生かした温室栽培の野菜が「新鮮でおいしい」と人気だ。冬は雪に覆われ生産量が落ちるため、中国や旧ソ連の中央アジアから輸入が主流だった。だが食の安全意識の高まりから、農薬や防腐剤を懸念する消費者が増加。多少高くても安全な野菜を志向するようになった。(共同通信=八木悠佑)

 ▽挑戦

 冬は氷点下50度に達する極東のサハ共和国ヤクーツク市郊外。札幌市の商社「北海道総合商事」などが出資する事業会社が温室野菜工場の拡張工事を終え、2021年12月17日に竣工式を開いた。日本の技術を活用して永久凍土の極寒地で初めて通年生産する温室を従来の3倍の3・3ヘクタールに拡大した。外は常時霧がかかり、日の出から日没まで約5時間しかない厳しい環境だ。

ヤクーツク郊外にある野菜栽培の温室(共同)

 「サユリ」ブランドでトマトやキュウリ、葉物野菜を生産。22年以降は20年実績の4倍弱の年約2300トン生産する計画だ。イチゴの試験生産にも乗り出した。

 北海道銀行などが主要株主となっている北海道総合商事が、事業会社に2%弱出資する。北海道総合商事の正司毅代表取締役はオンラインで竣工式に参加し「極寒の地で一年を通じ新鮮な野菜を供給する挑戦的な事業に参画でき、誇りに思う」と語った。

 事業会社にはヤクーツク市やロシア政府も出資。グリゴリエフ市長は「市の野菜市場の25%を占め、高品質で安全な野菜の代名詞になった」と評価した。冬に栄養が偏りがちな子供のため学校給食にも使う。

拡張された温室野菜工場の竣工式であいさつするロシア極東ヤクーツクのグリゴリエフ市長(共同)

 寒冷地の温室技術を持つホッコウ(札幌市)の協力を受け、16年に実証温室を完成させ、段階的に広げた。夏は30度を超える大きな寒暖差や、永久凍土が夏に解けてできる地表のゆがみに対応するため、温室には割れやすいガラスではなくフィルムなどを使用。施工や栽培の技術者を派遣し、日本に研修生も招いた。

 生産する野菜は中国産などと比べやや高いが、地元スーパーで販売を拡大。22年以降の売上高は20年の約4・5倍となる年約4億9千万ルーブル(約7億5千万円)を見込む。

 ▽丁寧に

 同じくロシア極東で冬は氷点下30度となるハバロフスクでは、プラント大手の日揮ホールディングス(HD)が「異業種」の野菜温室栽培に取り組んでいる。15年当初2・5ヘクタールだった温室は既に2倍に拡大。新型コロナウイルス禍の状況を見極めながら10ヘクタールに広げ、25年に現在の2倍の売上高15億円を目指す。

 土を使わない養液栽培でトマトとキュウリを中心に、葉物を含め年計1700トン生産。冬も晴れれば日光で育て、不足時に照明で補う。冬場に継続的に収穫するため、野菜供給が増え市場価格が下がる夏に植え替えを行う。「ノーブイ・ジェーニ」(新しい日)ブランドで直売店のほか、大手スーパーに卸して販売、約7億円を売り上げる。

ロシア極東ハバロフスクのJGCエバーグリーンの温室で、養液栽培されているトマト(共同)

 総投資額は約20億円で、拡大用地も確保済み。ロシアで品種登録を済ませた日本のイチゴも22年の生産開始を目指す。既存の野菜は生産規模拡大で価格を抑え、パプリカやナスへ品目を広げる。

 事業は順調だが、現地の事業会社JGCエバーグリーンの新井一則社長は「照明時間や温度のわずかな差が生育に影響する。日々丁寧に病気を出さず生産することが重要」と身を引き締める。プラントが本業の日揮にとって農業との相乗効果の検証も課題。日本企業の技術のショーケースとすることや、大学などとの協力も視野にある。ロシア企業と、北海道銀行もファンド経由で一部出資する。

JGCエバーグリーンの新井一則社長(共同)

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