2022年の鉄道事始めは「小田急ロマンスカー」で 箱根を「観光型MaaS」でめぐる 強羅からゴールデンコースで箱根湯本の日帰り温泉へ(後編)【コラム】

帰路に乗車した新鋭ロマンスカー「GSE」。GSEは「Graceful Super Express」の略。「Graceful(優雅な)」で、くつろぎなどを表現しました。乗車して感じたのは、小田原や相模大野の途中駅から乗車するビジネス客が多数いた点です

【前回】2022年の鉄道事始めは「小田急ロマンスカー」で 箱根を「観光型MaaS」でめぐる EXEαから登山鉄道に乗り継ぐ(前編)【コラム】
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2022年1月2~3日の「東京箱根間往復大学駅伝」。日本はコロナ禍で2020年、2021年と2年連続で厳しい状況に置かれたわけですが、快走する若いランナーに新しい年の復活、そして飛躍を予感した方も、いらっしゃるのではないでしょうか。

小田急箱根グループの観光型MaaSで箱根をめぐる鉄道旅のコラム後編では、箱根登山鉄道の終点・強羅から箱根登山ケーブルカー、箱根ロープウェイ、そして箱根山中を行く箱根登山バスという4種類の乗り物を乗り継いで出発地の箱根湯本へ。小田急グループの日帰り温泉に入湯して、疲れをいやしました。

鉄道、ケーブルカー、ロープウェイ、観光船乗り継ぐ「箱根ゴールデンコース」

名づけて「箱根ゴールデンコース」。箱根登山鉄道箱根湯本駅をスタートに、登山鉄道(箱根湯本―強羅)、箱根登山ケーブルカー(強羅―早雲山)、箱根ロープウェイ(早雲山―大涌谷―桃源台)、箱根海賊船(企業名は箱根観光船。桃源台港―箱根町港・元箱根港)で箱根の自然や富士山の眺望を満喫。海賊船を下船した後は、箱根登山バスで箱根湯本または小田原に戻る、箱根観光の定番中の定番といえるルートです。それぞれの乗り物は小田急グループの企業が運営します。

ゴールデンコースは、1960年9月に箱根ロープウェイの大涌谷―桃源台間が開通して周遊が可能になり、2020年に60周年を迎えました。この間、ずっと順風満帆でなく、最近も2019年10月の台風19号で、箱根登山鉄道が2020年7月まで約9ヵ月間不通になったほか、コロナ禍で外国人観光客が大きく減少する打撃も受けました。

しかし、2021年10月の緊急事態宣言解除を受けて、関東一円からのスモールツーリズムを起爆剤に、客足は徐々に戻りつつあるようです。箱根湯本の温泉街にも、多くの観光客の姿がみられました。

正式名称は箱根登山鉄道鋼索線

箱根登山鉄道と箱根登山ケーブルカーが接続する強羅駅は山小屋風の駅舎です

後編は、登山鉄道終点の強羅駅からダーツの旅ならぬMaaSの旅を始めます。強羅駅は、登山鉄道とほぼ直角にケーブルカー駅があります。ケーブルカーの正式名称は「箱根登山鉄道鋼索線」で、開業は大正年間の1921年。日本のケーブルカーでは、近畿日本鉄道の生駒ケーブル(生駒鋼索線)に続き2番目に長い歴史を持ちます。

強羅駅で発車を待つ箱根登山ケーブルカー。2021年の開業100周年をアピールする「100th ANNIVERSARY」のヘッドマークをつけます

路線は強羅―早雲山間の1.2キロで、途中に公園下、公園上、中強羅、上強羅の4駅があるのがケーブルカーでは珍しい点。中強羅駅や上強羅駅は車両の両側にホームがあり、左右両方のドアが開きます。ホームをわたる踏切や跨線橋はなく、降りるホームを間違えないよう、車内放送で注意をうながします。

延長約4キロ、およそ25分間の空中散歩

早雲山駅からが箱根紀行のハイライト。芦ノ湖畔までの空中散歩が待ちかまえます。箱根ロープウェイ(小田急箱根ホールディングスの子会社)は1959年4月に設立され、その年の12月に早雲山―大涌谷間、翌1960年9月に大涌谷―桃源台間が開通して、早雲山―桃源台間が全通しました。

早雲山駅に停車中の箱根ロープウェイ。駅では完全に停車するので、車いすでも安全に乗り降りできます

日本のロープウェイでは最長で、「複式単線自動循環式(フニテル)」と呼ばれる方式を採用しています。ゴンドラが両腕を伸ばして2本のロープにぶら下がるスタイルで、風に強いのが特徴です。

箱根ロープウェイはバリアフリー化に力を入れ、車いすのままでの乗車が可能に。人にやさしい移動の取り組みが評価され、2008年に第2回「国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰」を受けています。2009年7月には、ギネスブックからゴンドラ・リフト部門で乗車人員世界一に認定されました。

2020年9月に全線開通60周年を迎えた箱根ロープウェイからは、最近も安全運行のための設備投資や設備更新、訪日外国人に向けた多言語対応サービスといったニュースが発信されています。

顧客との接点をスマホによるデジタルにシフト

ロープウェイ終点の桃源台からは、海賊船で箱根町港または元箱根港に湖上散策するのが一般コースですが、今回はもう一つ目的があったので、行程を変更して箱根登山バスで箱根湯本に直行しました。バスが通ったのは、いわゆる箱根駅伝の山下りルート。所要時間約40分です。

ここで、箱根観光型MaaSをもう一度おさらい。小田急電鉄が2021年4月に策定したグループ経営ビジョン「UPDATE(アップデート)小田急」では、観光型MaaSの狙いを「顧客接点をスマートフォンなどによるデジタルにシフトさせ、MaaSを通じた地域の活性化、新しい価値の提案を行う(大意)」とします。

グループ経営ビジョン「UPDATE小田急」で提示したMaaS戦略のイメージ。箱根以外では江ノ電のシェアサイクル事業もMaaSの対象です(資料:小田急電鉄)

鉄道事業者は、駅や列車というリアルな(現実の)顧客との接点があるので、そこを起点に情報発信しますが、現代はデジタルの時代。リアルな接点を大切にしながら、デジタルで日本国内、そして世界へ沿線の魅力を発信する。「100年に一度のモビリティ(移動)革命」と称される変革期にあって、日本の小田急から「世界の小田急」に躍進するのが、究極の企業目標といえそうです。

小田急と日本旅行がMaaS連携

観光型MaaSを仲立ちにした観光・旅行業界との協業では、小田急と日本旅行(日旅)のMaaS連携が2021年11月に発表されています。日旅のツアーサイトでは、小田急の箱根フリーパス(現地用、2日間有効、大人用)付き旅行商品を販売します。

小田急と日本旅行のMaaS連携イメージ。箱根登山鉄道、箱根登山ケーブルカー、箱根ロープウェイ、箱根登山バスと、本コラムで紹介した乗り物の画像で箱根周遊をアピールします(資料:日本旅行)

日旅は全国ベースの総合旅行会社、親会社はJR西日本で関西エリアに強い事業基盤を持ちます。箱根は首都圏発の観光客が多いのですが、日旅の力で集客エリアを関西圏にも広げるのが連携の狙い。新幹線の乗車券・特急券と小田急グループの「デジタル箱根フリーパス」をセットにした旅行商品で、関西圏から小田原まで東海道新幹線、そこから箱根登山鉄道に乗り換えて箱根湯本や芦ノ湖に向かう観光ルートを定着させます。販売期間は2022年3月31日までです。

小田急グループの日帰り温泉施設に入湯

「古民家風の里山温泉」がキャッチフレーズの箱根湯寮。箱根の森に包まれた露天風呂もあります

箱根MaaS旅のラスト、箱根湯本駅から送迎バスで一足伸ばし、1キロほど西方にある日帰り温泉「箱根湯寮」を訪れました。位置的には、ちょうど箱根登山鉄道箱根湯本―塔ノ沢間のトンネルの真上。それまで別の企業が運営していた日帰り温泉施設を、小田急箱根グループの小田急リゾーツが引き継いで2013年3月に開業しました。

箱根七湯の一つの塔ノ沢温泉で、泉質はアルカリ性単純泉。神経痛、関節痛、慢性消化器疾患、疲労回復などに効能ありとされます。大浴場やレストランの「囲炉裏茶寮八里(読み方は「いろりさりょうはちり」。箱根八里からの命名ですね)、サウナのほか、19室もの個室があるのが特徴で、ターゲットはファミリー客です。

観光ピークのシーズンには、月間1万人近い入湯客が訪れることも。遠来の箱根観光客のほか、小田原など近隣住民にも湯寮ファンは多いようです。高梨浩三支配人は、「国内はもちろん、海外向けPRにも力を入れ、小田急グループの国際化に貢献したい」と話してくれました。

以上で箱根観光型MaaSの旅はゴール。取材目的の今回は日帰りの〝弾丸トラベル〟でしたが、箱根には小田急系の宿泊施設もいろいろあります。観光型MaaSには観光施設割引などの特典もあるので、次回は1泊2日または2泊3日でゆっくり箱根を周遊したい。そんな思いで、箱根湯本から「GSE」に乗車して帰路につきました。

みやげ物店が並ぶ箱根湯本駅前の商店街。緊急事態宣言解除で客足も戻りつつあるようです

記事:上里夏生(写真は全て筆者撮影)

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