北朝鮮のエリート大生を「空き巣」に走らせる教育の仕組み

無償教育制度は、北朝鮮が誇る「社会主義の優越性」の一つだ。幼稚園から大学に至るまで、すべての学校の学費が無料というものだが、大学に費用が支払えず人様のものに手を出してしまった名門大学の学生が逮捕される事件が起きた。一体どういうことなのだろうか。

逮捕されたのは、首都・平壌にある教育大学の最高峰、金亨稷(キム・ヒョンジク)師範大学に通う30代のキム氏だ。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が、事のあらましを伝えた。

母ひとり子ひとりの貧しい家の出のキム氏は、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の特殊部隊での兵役を終えた後、2019年に金亨稷師範大学に入学した。北朝鮮では、兵役中に大学への推薦を受け、除隊後に入学することから、30代の学生は珍しくない。

だが、苦学生の彼を待っていたのは、駅前や市場で運び屋をして手間賃を得て生活費を稼ぐ日々。それすらもコロナ不況で難しくなってしまった。

冬休みを利用して故郷の咸興(ハムン)に戻っていた彼は、冬休みの課題の解決に頭を悩ませていた。課題と言ってもレポート作成などではない。学校への上納金の調達だ。

悩んだ末に彼は、元日に酒を飲んで酔っ払って寝入っている人が多いだろうと考え、空き巣に入ったのだった。ところが、あっという間に犯行がバレ、翌日深夜に咸興市安全部(警察署)に逮捕されてしまった。

取り調べでキム氏は、母校の金亨稷師範大学から各種社会的課題費用として毎週50ドル(約5800円)以上の現金を要求されていたこと、上納できていないカネが400ドル(約4万6400円)以上溜まっているなどと、犯行の動機と母校の金権体質を語った。

「勉強よりカネを稼ぐことに神経を使わざるを得ない状況だった」(キム氏)

安全部は、キム氏が特殊部隊出身で、中央大学(一流大学)の在学生、つまり日本風に言うところの「上級国民」であることから、今回の案件の取り扱いに慎重になっている。また、捜査官も大学の実情をよく知っており、重い処罰は下さないだろうと、情報筋は見ている。

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