光を観る日

 明治の初め、日本政府は欧米に100人に及ぶ使節団を派遣し、岩倉具視(ともみ)ら新時代の開拓者が見聞を広めた。帰国後にまとめられた記録書には、巻頭に「観光」と大書されたという▲「観光」という言葉は中国の古い教典に由来し、「光」とはその国の自然や文化、政治、暮らしなどを言う。光を観(み)る。諸国に学ぶことだらけだった明治の使節団は、もともとの意味での「観光」を果たしたのだろう▲観光を産業の柱の一つとする長崎県もほんの4年前、物見遊山の観光から本来の意味の観光への変わり目にあった。2018年に来県した観光客の数は世界遺産登録を追い風に、延べ3550万人と過去最多だったが、一方でこの頃、陰りも見られている▲中国人が大量に物を買い込む「爆買い」がピークを過ぎ、訪日客の1人当たりの消費額は下降線をたどっていた。「買う」よりも「見る、学ぶ、味わう」観光へ。訪日客の関心は移りつつあった▲その矢先、コロナ禍が世界を覆い、今なお訪日観光客が戻る気配はない。国内でも観光支援の「Go To トラベル」再開は見送られるという▲気が早いとは知りながら、今年のうちに何とか、と願う。多くの人が自然、歴史、食といった長崎のまばゆい「光」を観られることを。観光県の前途に光が見えてくることを。(徹)

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