ビーチに出現した謎の……餃子!!??『ザ・ビーチ』は総感染時代と静かにシンクロする背筋ゾゾゾな寄生SFホラー

『ザ・ビーチ』©2019 Bad Oyster LLC All Right Reserved.

別荘地に不穏な気配

風光明媚なビーチで起こる恐怖を描いた『ザ・ビーチ』は、1999年のダニー・ボイル監督/レオナルド・ディカプリオ主演のアレ……ではなく、2019年製作の超低予算SFホラー。まぎらわしいので原題『The Beach House』のままでよかったような気もするが、うっかり間違えて観たら(いい意味で)衝撃を受けるだろうサイケな微グロ触手系ムービーだ。

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登場人物は4人で、主人公エミリーと彼氏のランドール、それに彼の父の友人夫婦であるミッチとジェーンだけ。オフシーズンの閑散とした時期にランドールの父の別荘にやって来た2組のカップルは、予期せぬ鉢合わせに戸惑いつつもディナーを共にするが、どうも様子がおかしい。どうやらジェーンは何らかの重病を抱えていて、これが最後のバケーションになるであろうことを匂わせる。うーん、なんとも不穏な展開だ。

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何このデカい餃子みたいな肉塊……怖い! キモい!!

大学院への進学を望む真面目なエミリー、かたやドロップアウトした冷笑野郎ランドール、絶望と不安に押し潰されそうになっているジェーン、そんな妻を献身的に支えている様子のミッチ……。「曲」と言えるような劇伴もほとんどなく、4人それぞれが手探りで交流する淡々とした描写の中で、観客に全員のパーソナリティを少しだけ把握させる。

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このまま人間性と関係性の歪みを掘り下げていくサスペンスとしても成立しそうなものだが、本作にはどうしてもスルーできない強烈な物体が登場する。そう、ビーチにズラリと並ぶ“プリプリの肉餃子”だ。

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……もちろんこれは餃子ではないのだが、しかしどこからどう見ても完全に餃子である。どうやら地球の環境変化によって現れたものらしい、というところまではエミリーたちの会話や劇中のニュース音声から何となく示唆されるものの、さすがに本国の観客も「WTF is this Dumpling!?」と叫んだのではないだろうか。ただ、よく見ると黒いトゲのようなものが生えていてクラゲっぽくもあり、「ギリ餃子じゃない」と認識させてくれるのが救いだ。

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そんな餃子たちの登場とともに、謎成分多めのホラーパートが本格的に動き出す。それは不気味な寄生生物へ嫌悪感であり、見知らぬ場所で大きめの怪我をしたときの強い不安でもあり、そして命にかかわるウイルスに感染したかもしれないという、いつの間にか当たり前になってしまった恐怖でもある。

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ロケハンの成果? 低予算ホラーのお手本のような仕上がり

これが長編デビュー作となる監督のジェフリー・A・ブラウンは、長らくロケーション・マネージャーとして様々な作品に関わってきたという。本作も、よくこんな場所を探してきたものだと思わされる人気のないビーチで撮影していて、分かりやすく生活臭が漂う屋内シーンとも違和感なく接続されている。そして、クローズアップを多用しキャストの演技によって恐怖を演出するインディーホラー/スリラー映画のセオリーを踏みつつ、パンデミック世界を予見していたかのような隔絶感を醸成するセンスも見せつける。

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まるでジョン・カーペンターの『ザ・フォッグ』(1980年)やフランク・ダラボンの『ミスト』(2007年)の濃霧のようにどこからともなく現れ、じわじわと人間に感染していく“なにか”も、この異状な時代にバッチリとマッチ。実は、それが一体なんなのかは最後まで曖昧なままなのだが、映画は現実の社会情勢と無関係ではいられないし、必ずしも予算をかけて映像で全てを説明する必要はないのだということも結果的に証明している。

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人の気配のしないオフシーズンの別荘地は、世界中の人々がここ2年ほど感じてきた寂寥感を映像化するのに最適なロケーションだったのだろう。細かい部分の好き嫌いは別にして、攻めたSFホラーを低予算で真摯に撮ったらこうなりました的な仕上がりなので、予期せず良作と出会ったときのささやかな喜びを味わいたければ、ぜひ。ちなみに音楽は不穏系エレクトロ~ブレイクの雄、Vex’dのロリー・ポーターだ。

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『ザ・ビーチ』は2022年1月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、2月よりシネ・リーブル梅田で開催「未体験ゾーンの映画たち 2022」にて上映

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