元にっぽん丸シェフ・内田さん 横浜で開業 船内での人気商品販売

パン店「ハーバーベーカリー105」を開業した内田孝治さん=横浜市南区

 豪華客船「にっぽん丸」(2万2472トン)など、クルーズ船のレストランで約30年にわたってパンやデザートづくりを担当してきた内田孝治さん(50)が2021年11月下旬、自身のパン店「ハーバーベーカリー105」を横浜市南区の横浜橋通商店街の近くに開店した。にっぽん丸は「パンまつり」クルーズが催されるほど、船内で焼かれるパンが人気。内田さんは「材料は異なるが、にっぽん丸で出してきたパンに近い味わい。地元横浜で愛される店を目指したい」と力を込める。

 オープン当日、店先には開店と同時に行列ができた。看板商品は高さ、幅ともに8センチで長さが約35センチある細長い食パン「棒食パン」。プレーン(540円)、チーズ(650円)、クルミバター(760円)の三つの味があり、やわらかな食感と上品な味わいが楽しめる。

 いずれも船内で人気があったパンといい、「商品は味に自信がある種類に絞った」と内田さん。販売しているのはこの3種類に和三盆食パン(970円)を加えた計4種類のみだ。

 店名は生まれ育った横浜にちなんだハーバー(港)ベーカリーに決め、にっぽん丸で世界一周する際の日数「105」を入れた。

 世界一周は思い入れのあるクルーズといい、「さまざまな街で仕入れた食材を使い、毎日食べても飽きない味を提供するために苦労した。大変だったが、忘れられない日数」と振り返る。店内ににっぽん丸の絵を飾り、持ち帰り用の紙袋に客船の絵をあしらうなど、内田さんのクルーズへの思いは店名にとどまらない。

 好評を博していた客船のパンには、どんな特徴があるのだろうか。内田さんは「先輩たちによって蓄積されたレシピがあり、食事の時間に最もおいしい状態になるように、細かく時間を定めて焼き上げていた」と秘密の一端を明かした。

 船の朝は早い。5時半までに起き、乗客約400人の食事の仕込みを始める。合間に休憩を挟みつつ、夜9時ごろまで働いた。忙しく厳しい生活だったが、父親の仕事の関係もあって子どものころから海と船が好きだった内田さんにとって、船での暮らしは楽しくもあった。船底に近い自室の小さな窓からは海が見え、デッキに出れば広大な水平線を眺めることができた。

 もっとも、天気が良い日ばかりではない。台風が直撃した時はテーブルの食事がこぼれてしまうため、「一度だけだが、弁当を提供したこともあった」と悔しそうな表情を浮かべる。

 内田さんは水産高校を卒業して海員学校へ通い、「商船三井客船」に就職。「おいしい食事を食べてもらいたい」との思いを持ち、客船の厨房(ちゅうぼう)で腕を振るってきたが、2021年4月、にっぽん丸のデザートやベーカリーを担当する「ヘッドペイストリーシェフ」を最後に退職。「自分の腕を試したい」と独立を決意した。

 新しい人生の船出に「精いっぱいやるだけです」と意気込む内田さんだが、「人生の大半を過ごし、育ててもらった船や海が今でも恋しくなる」とも明かし、コロナ禍で厳しい状況が続く古巣にエールを送る。

 「ゆったりとクルーズを楽しむ人がもっと増えてほしい。ぜひ、にっぽん丸に乗船して、おいしいパンを味わってもらいたい」

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 「ハーバーベーカリー(Harbor Bakery)105」は横浜橋通商店街の三吉橋側に近い交差点を西側に曲がってすぐ。問い合わせは同店電話045(315)4540。

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