〈じょうえつレポート〉障害者アート活動けん引 アール・ブリュット作家 妙高市在住佐藤葉月さん 作品は人の心映す鏡 意欲的に創作や発信

 フランス語で「磨かれていない、生(き)のままの芸術」を意味する活動「アール・ブリュット」。障害のある人、生きにくさを感じている人らが表現者となり、既存の芸術の枠組みにとらわれない作品を生み出している。妙高市在住の佐藤葉月さん(37)は上越地域における同活動の旗手。昨年はコンクール入賞、酒造業者とのコラボ企画に実行委員長として関わるなど意欲的に活動している。(報道部・竹内光晴記者)

発達障害と新たな出合い

 発達障害の一種に対人関係の難、特定分野へのこだわりなどの先天的特徴を示す「自閉症スペクトラム」がある。佐藤さんは32歳の時にその診断を受けた。それまで就労先のコミュニケーションにおいて「あいまいな指示が分からない」「言外の気持ちを察することが難しい」などの悩みを抱えていた佐藤さんにとって、診断は「自分の努力不足ではないと分かり、ふに落ちると同時に安心した」出来事だった。

 社会とのあつれきに疲れ、こもりがちになる日々。診断を受けた同年、偶然立ち寄った書店で購入した小さなスケッチブックが転機となる。手元のペンで思い付くままに曲線や円を描き、1枚の絵が出来上がった。「誰かに見てもらいたい」と思い、SNSを通じて発信。好意的な声に創作意欲を刺激され、気が付けばスケッチブックは絵でいっぱいになっていた。

 翌年、障害者アートの普及啓発に取り組む「新潟県アール・ブリュット・サポート・センター(NASC)」と出合い、ワークショップへの参加や展覧会への出展を通じ、本格的に創作活動を開始。展覧会では作品を欲しいという声があったという。「何事にも自信がなかった当時、自分の価値が認められた思い。顔が見える相手からの評価が励みになった」と振り返る。

アール・ブリュット作家の佐藤葉月さん(昨年12月24日、ふふふのお店)

作品総数562点 コラボ企画も

 精力的に創作活動を展開する佐藤さん。はがきサイズから90センチ×180センチの大作まで幅広く手掛け、昨年末で作品総数は562点となった。筆のおもむくまま幾何学的な模様を描き、完成後のイメージでタイトルを付ける。「制作中は自分でもどんな形になるか分からない。そこに面白さ、楽しさがある」と話す。佐藤さんの作品は見る人の心を映す鏡。「人によって捉え方が違うため、作品を通じて会話が生まれ、発見・出会いが広がっていく」と笑顔を見せる。

 近年は、第7回東北障がい者芸術全国公募展「Art to You!」に出展した作品が「東北発電工業賞」を受賞。また、「フクシ×アート×デザイン展」(主催・高田ロータリークラブ)では佐藤さんの作品をモチーフにしたグッズを販売。他に類を見ない作品は県内外から高い評価を受けている。

 昨年に立ち上がった企画「ぼくらのShuShuShu」では実行委員長を務めた。上越地域のアール・ブリュット作家12人と8蔵元がコラボレーション。作品をラベルにあしらったお酒を製造し、10月末には各所の協力酒店で販売された。「さまざまな人や団体が関わってくれた。これからも愛されるプロジェクトを目指し継続していけたら」と意欲を見せる。

酒造業者との初コラボ企画「ぼくらのShuShuShu」。佐藤さん(左から2人目)は田中酒造のラベルを担当した(昨年10月26日、販売店の横川酒店)

 現在はアール・ブリュット作品の委託販売・情報発信などを行う「ふふふのお店」(上越市西城町2)で週1、2日程度店番を担当。佐藤さんの作品制作の一端を目にすることができる。

垣根を越えるきっかけに

 佐藤さんは「やることが見つからない時間は長くつらい。この5年間はあっという間。目標ができ、充実した日々を過ごせた。気持ちは大切。体調も良くなった」と、創作を始めてからの歳月に思いをはせる。

 アール・ブリュット、そして自身の創作活動について「まずは私たちの作品を見てほしい。みんな、さまざまな思いを胸に日々を生き、その延長線上で絵を描いている。作品が垣根を越えるきっかけになれば。私自身はこれからも『ご縁』を大切に、作品発表や販売の機会を増やしたい。ぜひ一度、ふふふのお店を訪れてほしい」と話している。

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