金正恩命令も無視…北朝鮮「特殊部隊」のやりたい放題

1400キロに及ぶ北朝鮮と中国、ロシアとの国境の警備を担当しているのは、国境警備隊だ。しかし、昨年から朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の特殊部隊「暴風軍団」(第11軍団)が、国境警備の強化要員として派遣されている。

新型コロナウイルスの流入防止策として金正恩総書記が厳命した、国境封鎖を徹底するためだ。

国境警備隊は地元とのしがらみから密輸、脱北を効果的に取り締まりができないばかりか、それらに積極的に幇助、加担してさえいる。そこで、地元と縁のない特殊部隊に白羽の矢が立ったというわけだ。

ところが、乱暴でトラブルメーカーの爆風軍団は評判が相当に悪い。そればかりか、川向うの中国の繁栄ぶりに目を奪われ、脱北したり違法行為に手を染める者すら出している。そんな彼らがまたトラブルを起こした。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

時は金正日総書記の命日の昨年12月17日。咸鏡北道の会寧に駐屯している暴風軍団のある警備組のメンバーが一斉に逮捕された。その容疑は、ある家族が川を渡って脱北するのを幇助したというものだ。

重要な政治行事が行われるときは、国内に厳粛な空気が流れる一方で、国境の警備は手薄になる。それを狙って脱北ブローカーと、家族3人が川を渡って脱北、中国に脱北するのに成功した。手招きしたのは、暴風軍団の軍官(将校)と下戦士(二等兵)だった。

彼らは哨所(監視塔)や監視カメラの設置された区域を最大限避けて川を渡ったが、脱北ブローカーが北朝鮮に戻ってきた様子がカメラに写ってしまい、事件が発覚した。

脱北の動きを事前に察知できなかった暴風軍団の指揮部だが、軍官と下戦士が自らの担当区域でないところでウロウロしているのを不審に思い、彼らを逮捕して激しい拷問にかけて、自白を引き出したとのことだ。

彼らは、今までも脱北ブローカーとグルになって、続けざまに住民の脱北に手を貸し、それで得たワイロで、結婚、進学の費用に加え、親戚の商売の種銭まで稼いでいた。

それも、誰でも彼でも脱北させるのではなく、脱北した先の中国で捕まる可能性が低く問題になりにくい人だけを選び、脱北させる慎重さを見せていた。今回、脱北させた家族3人も中国に親戚がいるとのことだ。2人は、儲けるだけ儲けたのだから手を引くべきだったのに、欲を出してさらに稼ごうとしたところで逮捕に至った。

脱北した家族3人は、昨年1月から続くコロナ鎖国で深刻な生活苦に追い込まれ、国境が開くのを待っていたが、その兆しは一向に現われない。もはや希望はないと北朝鮮を見限り、知り合いから多額の借金をしてブローカーに費用を支払い、国境を越えて脱北したと伝えられている。

暴風軍団指揮部と国家保衛省(秘密警察)は、今回の事件に加担した者が他にいないか綿密な調査を行い、事件を起こした2人が所属する大隊の人員を、第7軍団の兵士に総入れ替えすることとした。

昨年10月に起きた、国境警備隊員に睡眠薬を飲ませ、寝込んだ好きに一家4人が脱北する事件を受けて金正恩総書記は「億万のカネをつぎ込んででも、民族反逆者を無条件で捕まえて、見せしめとして厳罰にせよ」と命じ、国家保衛省は中国に要員を派遣して逮捕に成功した。

一方、今回の事件に関して金正恩氏が何らかの言及をしたかは伝わっていないが、地元の保衛部は手も足も出ず、歯ぎしりしているという。国家予算を持ち逃げしたわけではなく、スパイ容疑もかかっていないため、中国の公安当局に協力要請をすることもできないからだ。中国側も北朝鮮からの要請を受けたとしても、あまり協力的ではないと伝えられている。

なお、国境地帯に駐屯している暴風軍団は、密輸と脱北を防止するためのコンクリート壁(正確にはコンクリートの柱とフェンス)と高圧電流の設置工事が完了し次第、撤退することになっていた。しかし昨年10月の完成予定を過ぎて今に至るまで工事は終わっておらず、今回総入れ替えとなった部隊を除き、当面は駐屯が続くものと思われる。

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