プロ野球日本ハムの新庄剛志監督がオフの話題を独占している。
派手な衣装を身にまとったパフォーマンスと「宇宙人」と呼ばれる奇抜な言動は話題を呼び、テレビのCMにも登場している。
新監督が注目される一方で、チームから出される形で退団した選手がいる。西川遥輝、大田泰示、秋吉亮の3人だ。
1月13日現在、秋吉の進路は決まっていないが、西川は楽天、大田はDeNAに移籍し、新天地で新たなスタートを切ることになる。
昨年11月。球団に呼ばれた彼らは、突然「ノンテンダー」の通告を受ける。新任の稲葉篤紀GMからは「フリーエージェント(FA)になるより、自由に次の所属先を選べる」とノンテンダーの趣旨を説明されたが、分かりやすく言えば自由契約、お払い箱という意味だ。
西川は昨季、出場試合数を大幅に減らし打率2割3分3厘、3本塁打、35打点と不振にあえいだが、24盗塁で4度目の盗塁王を獲得している。
大田もまた打撃不振に陥り、打率2割4厘、3本塁打、20打点でシーズン途中からは2軍暮らしが続いた。
だが、2020年シーズンは二人とも主力として立派な数字を残してチームを牽引している。昨季だけを見て、衰えを指摘するのは早計だろう。
主力格を放出した背景に、チームの抱える「お家の事情」を指摘する声もある。
一つは中田翔のチームメートへの暴力行為などにみられる規律の緩みだ。
中田は巨人に無償トレードの形で移籍したが、これを機にチームは根本からの再建へ舵を切った。
二つ目は一連の流れの中で、若手中心のチーム作りを推進する方針が決まったことだ。
近年の成績不振でファン離れも深刻化して球団経営も悪化している。加えて来年、北広島に誕生する新球場への移転に向けてフレッシュなスターを作りたい。
さまざまな事情が重なって、年俸も高い西川(推定2億4000万円)と大田(同1億3000万円)が整理リストに入れられたというわけだ。
本来であれば、FAかトレードで移籍してもおかしくない。29歳の西川、31歳の大田に年齢的な衰えはまだ考えにくい。
しかし、近年のメジャーでは30歳前後の中堅選手の放出が相次いでいる。このクラスの選手になるとFAで引き留めようとすれば、複数年契約と高額な年俸が必要になる。それならば、若手の有望株を育てた方が経営上も得策となる。
日本ハムという球団は、いち早くメジャー流の育成や経営メソッドを取り入れたチームだ。今回の「ノンテンダー」も、こうした視点から見れば合点がいく。
チーム事情はどうであれ放出された側にも意地がある。同じパ・リーグの楽天に移籍した西川には重要な任務が与えられる。
「塁に出ることに特化した素晴らしい選手。次の塁を狙う素晴らしい才能を持っている」と楽天の石井一久監督が言うように、機動力アップの切り札として期待されている。
昨年3位に終わった楽天の補強ポイントが走力である。チーム盗塁数45は4年連続でリーグワースト。そこに9年連続二桁盗塁、通算311盗塁のスピードスターが加わるのだから願ったり叶ったりだ。
盗塁だけでなくプロ通算3割8分という出塁率の高さも1、2番打者を固定できない打線にはプラス材料となりそうだ。
DeNAの大田には、チームの最下位脱出と戦力の底上げの使命が加わる。タイラー・オースティン、佐野恵太、桑原将志の外野陣は昨季、いずれも打率3割をマークしている。
その一角を崩して定位置を獲得するのは容易ではないが、もちろん大田の目標は高いところにある。神奈川県の東海大相模高出身のスラッガーが、地元での復活を誓う。
年俸は西川が推定8500万円、大田が推定5000万円と日本ハム時代の3分の1ほどに下がったが、活躍の場を与えられたことには感謝している。
弱肉強食の世界。過去の名声だけで通用しないことは分かっている。だからこそ、今季にかける思いは熱い。
「ノンテンダー」の男たちが、キャンプを経てシーズン開幕時にどんな立場にいるのか。この春の注目点の一つである。
荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル
スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。