第100回の記念すべき大会に圧勝

記憶に残る強さを示した青森山田

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第100回全国高校サッカー選手権決勝の大津戦の前半、チーム2点目のゴールを決め喜ぶ名須川真光(中央)ら青森山田イレブン。3大会ぶり3度目の優勝を成し遂げた=10日、国立競技場

 好き嫌いや、思い入れをひとまず脇に置いて考えてみる。今回で100回を迎えた全国高校選手権。1月10日の決勝戦で熊本代表の大津を4―0で破った青森山田は、おそらく長い歴史のなかでも最強の部類に入る。

 いや、もっと強いチームがあった。そう反論する人もいるかもしれない。だが、ここ10年、今回の青森山田を超えるチームがあっただろうか。高校年代であっても日々進化する戦術やフィジカルを考えると、比較できるのは過去10年ぐらいだろう。

 5試合で21得点2失点。1試合で4点強のゴール数だ。青森山田の攻撃力は数字だけ見てもすごい。ただ、攻撃ばかりに目がいくのだが、それ以上のすごみは守備力だろう。ピッチのすべての局面においてプレッシャーをかけ続け、隙あらば体をぶつけてボールを奪い取る。ボール奪取のスペシャリスト集団と言ってもいいチームは、対戦するすべてのチームの選手たちにプレーする時間とスペースを与えなかった。1対1の勝負の厳しさ。その上に成り立つチーム戦術は、決勝戦でも大津をシュート0本に抑え込んだ。得点チャンスを一度も与えない。高校サッカーの頂点を決める試合としては、あり得ないような一方的な試合となってしまった。

 サッカーの現場にいると、よくこのようなフレーズを耳にする。「自分たちのサッカーを展開したいです」という言葉だ。ある意味で当たり障りのない優等生発言は、実のところ遂行するにはかなりの実力を身に付けていなければならない。サッカーは相手があってのもの。しかも両軍の選手が入り乱れて行われるものだから、自分たちの思うように試合を進めることができるのは実力で勝るチームだけ。それもかなりの力量差が必要だ。少しでも力が劣れば、自分たちの理想にはほど遠い内容の試合が展開される。

 準決勝。「トルメンタ」と呼ばれるセットプレーの際のトリックプレーで大会を盛り上げた山口代表の高川学園。必殺技はCKを1本も与えない青森山田の守備力の前に繰り出す機会さえなかった。決勝戦。大津のキャプテン、森田大智は「序盤で思ったよりも(青森山田の)圧力やパワーがすごくて、後手に回った」と自分たちのペースをつかめなかったことを語っていた。青森山田の想像を超える圧が、大津に襲いかかったのだ。

 この時期、いつも思うことがある。「日本において負ければ終わりのトーナメントの勝ち方は高校サッカーの強豪校が一番知っているのではないか」。ピンチには割り切ってセーフティーファーストに徹する。GKからつなぐことを支持する人には受け入れられないだろう。しかし、サッカーの目的は失点を防ぎ、相手より多く得点することである。それを考えると、ボールを自陣より遠ざけておくということは失点の可能性を減らす最良の方法だ。さらにセットプレーで得点できれば、こんな楽なことはない。

 プロであっても1点の価値をよく理解していない選手を見かける。セットプレーから失点して敗れた際に「でも守備を崩されて失点したわけじゃないから」と平気で口にするJリーガーがいる。そういうときに心の中で「1点は1点なんだよ」と毒づくことがある。

 乾貴士のいた野洲高が「セクシーフットボール」で見せたコンビネーションからのゴール。セルティックの中村俊輔がマンチェスター・ユナイテッド戦で決めたFKからのスーパーゴール。そして、高校選手権で生まれるあらゆるゴール。そのすべてが同じ1点の価値を持つ。

 決勝戦、青森山田の得点の仕方は効率が良かった。前半37分に左CKをDF丸山大和がヘディングで合わせて先制。41分にはFKを起点に左へ展開し、最後は名須川真光がスライディングシュートを決めて2―0。後半も、10分にはロングスローの流れからエースの松木玖生。後半33分には美しい展開から渡辺星来が決めて4―0の大勝を締めくくった。全21得点のうち、セットプレー絡みは9得点。この効率の良さがW杯最終予選で「トーナメント状態」に追い込まれている森保ジャパンにあればと考えながら、昔のことを思い出した。

 15大会前の第85回大会。高校時代の友人の息子が青森山田のレギュラーとして出場していた。全国各地から選手が集まる中で友人の息子は数少ない青森県人だった。友人と一緒に観戦したのは駒沢競技場。3回戦で静岡学園と対戦した青森山田は終了直前に失点して0―1で敗れた。

 試合後、黒田剛監督が選手にこう声を掛けていたのを覚えている。「おまえたちは、最後まで集中を切らしていなかったよな。ちゃんとマークもしていたよな」。監督は選手に語りかけるというよりは自らを納得させるためにこの言葉を繰り返していたように思えた。あのときのチームも魅力的なサッカーを展開するチームだった。ただ、それだけでは勝てないことを苦杯をなめることによって貴重な教訓としたのだろう。

 そして、つくりあげた第100回大会のチャンピオン。すべての面において選手全員のベクトルが戦い抜く方向に一致していた。インターハイ、高円宮杯U―18プレミアリーグ東地区に続くタイトル。「三冠」を独占した雪国の盟主。今大会の青森山田は記念大会に恥じない圧倒的強さを示した。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。