バスケット「B1」最年少デビュー、期待の新星現る 横浜ビー・コルセアーズの17歳、ジェイコブス晶

2021年11月、B1史上最年少デビューを飾ったジェイコブス晶=横浜国際プール(C)B.LEAGUE

 バスケットボール男子のBリーグ1部(B1)に将来性十分な、期待の星が現れた。昨年11月、横浜ビー・コルセアーズ(横浜BC)のジェイコブス晶(あきら)は17歳7カ月でコートに立ち、同リーグ史上最年少出場の記録を更新した。身長200センチながらポイントガード(PG)もこなせる新鋭は快挙に浮かれることもなく、Bリーグから世界へと羽ばたく夢を抱く。(共同通信=木村督士)

 ▽コロナ禍で日本に

 2021年11月13日、横浜国際プールで行われた宇都宮ブレックスとの一戦。ジェイコブスは、リードされた残り1分28秒に登場した。ハーパー・ローレンス(当時琉球ゴールデンキングス)の17歳11カ月28日を抜き最年少記録を更新した瞬間だ。得点こそなかったものの、スチールから速攻を仕掛け、味方にパス。攻撃リバウンドも記録した。「すごくうれしかった」としつつ「もう少し活躍はできたと思う」とも。「満足しちゃったら、もっとうまくなれないんで」と貪欲に上を目指す。

オンライン取材に応じるジェイコブス晶=2021年11月26日

 神奈川県出身。米国人の父と日本人の母を持ち、現在は通信制の高校で学ぶ。生後間もなく渡米し、カリフォルニア州で育った。バスケは4歳ごろに自分から始めたという。箸を持つのは右手だが、バスケだけは自然と左利きに。新型コロナ禍でプレー機会を求め、20年12月に帰国。昨年1月から横浜BCのU18(18歳以下)に所属し、同9月に特別指定でトップチームに加わった。現在もU18の活動は継続中。指導するU18の白沢卓監督は「トライアウトの申し込みが来た時に、200センチでポイントガードと。うそだろうと思っていた」と振り返る。しかし実際に2メートルの少年が披露したボール扱い、シュートのうまさに「本物だ」と思わされた。「どう育てて、世界レベルに引き上げてあげようとか。すぐに考え始めた」

U18の大会でベスト5を受賞したジェイコブス晶=2021年12月19日、川崎市スポーツ・文化総合センター

 ▽最年少記録の意義

 リーグ史に名を刻んだが白沢監督は「個人的にはあまり重視していない。ここからが大事」と言う。ジェイコブスも「デビューしたのがピークなのは絶対に嫌。うれしいけど、それだけなら意味がない」と執着しない。

マーベリックスのドンチッチ(右)=2019年12月、ニューオーリンズ(NBAE提供・ゲッティ=共同)

 白沢監督は海外と比べて平均年齢の高いBリーグで育成型クラブと公言する横浜BCの若者が扉を開いた意味は大きいと捉える。国際バスケットボール連盟の統計ではBリーグは調査対象となった欧州など16のリーグで平均年齢が28・3歳と最も高かった。米プロNBAマーベリックスの中心選手で、東京五輪で初出場のスロベニアを4位に導いたルカ・ドンチッチは15年に16歳でスペイン1部の名門レアル・マドリードでデビュー。それでも同リーグで当時14歳11カ月の最年少記録を持っていたリッキー・ルビオ(スペイン)らに続く歴代3位だった。

 白沢監督は「欧州では16歳、17歳がトップデビューしているのは当たり前」と指摘。その上で、ジェイコブスの記録に「そこをこじ開けたという意味では非常に意義深いし、晶に続く選手が出てくる必要がある」と国内バスケの活性化を願う。

 ▽育成の横浜BC

 横浜BCにはかつて育成チームに所属し、17年に史上最年少の15歳で男子日本代表候補に入った田中力が世界有数のスポーツ選手育成校、IMGアカデミーへ進んだように選手の海外挑戦を歓迎する文化が根付いている。「受け入れて、できるだけ後押しをしたい」と語る白沢監督は、土地柄も影響しているのではと感じている。「横須賀や厚木の米軍基地の子たちがいたり、インターナショナルスクールの子たちが参加してくれたりする」と日頃から世界の風を肌で感じる土壌がある。ジェイコブスのトライアウト参加にも「身長がうそだろうと思ったぐらいで、そんなに違和感はなかった」と受け止めた。

 ▽Bリーグから世界へ

 ジェイコブスをガードとして育成するのは世界を目指す上で理にかなっている。体重83キロとまだ細身だが、司令塔役としては既にNBAでも長身の部類。骨密度を測定したところ身長はまだ伸びると言われたそうで「Bリーグでもトップの選手になって日本代表にも入りたい」と目標を掲げ、28年ロサンゼルス五輪出場を見据える。その頃には肉体的に充実し、プロ経験も積んで技術も上がっていて「そこが一番、自分が入れると思っている」と将来像を描く。

 この1年で「うまくなっている」と手応えは十分。「NBAは小さいころからの夢。いつかは行きたい」としつつ「Bリーグで活躍して五輪やワールドカップ(W杯)で活躍すれば世界でも見られる。日本から世界に」と力を込める。国際化が進むNBAでも、ドラフトでは米国の大学から卒業を待たない「アーリーエントリー」でプロ入りする形が多く、ウィザーズの八村塁もこのケースだ。Bリーグを経てNBAを狙うのは、マーベリックス傘下レジェンズに所属し、NBA下部Gリーグでプレーする馬場雄大が挑む道に重なる。

NBAのバックス戦でプレーするウィザーズの八村塁(右)=2020年11月、ワシントン(USA TODAY・ロイター=共同)

 白沢監督は「アメリカの大学に行くことを今のところ選択肢に入れていない」とジェイコブスの言葉を引き取る。「Bリーグで活躍し、日本代表になり、代表で活躍する。そこからピックアップされれば一番いい」と理想はある一方で、NBAで若手の登竜門となるサマーリーグ挑戦などを支援することも考えている。指導者としては23年W杯での代表入りも「チャンスがあるかもしれない」と見ている。24年のパリ五輪も「もちろんチャレンジしない理由がない。その過程の中でNBAがある」と大器の潜在能力に期待している。

 ▽先を見据えた育成

 ジェイコブスを育てる上で「最適な時に、最適な場所にいられる状況をつくらないといけない」と口にする白沢監督は、竹田謙ゼネラルマネジャーやトップチームの青木勇人監督とも密に連係。今回のデビューも「かなり情報を共有し、話し合っていた」と入念にタイミングを探っていた。

 成長が足踏みしないように「けがをさせないこと」を重点に置き、練習量を調整するなど負荷には配慮。同時に、白沢監督は「何でもチャレンジするように」との方針を大切にする。「『PGだからこれしかしない』、『これはできないからやらない』ということがないように」。まずは可能性を広げることが今後に生きるとの狙いがある。

横浜BCの白沢卓U18監督(C)B-CORSAIRS/T.Osawa

 現代バスケで不可欠な3点シュートは同年代の試合では迷いのないフォームから見事に沈める。白沢監督も「特にロングレンジ(長距離)はすごく上手」と認める。「実際に練習の時でなく、試合の中でのシュートのパーセンテージが非常に高い。これはすごく強み」と緊張感の中で力を発揮できることを評価する。

 加えて試合を組み立てる上で重要なパスにもセンスを感じている。「コートビジョン(視野の広さ)もある。技術はまだこれからだが、見えてるという意味では頭もいい。プレーをしっかり読めるのは強み」と大きな可能性を見いだしている。「シュートがただ上手で点数が取れる選手じゃなくて、めちゃくちゃスマートな選手になってくるんじゃないか」と期待する。課題として挙げる「リーダーとして今後日本代表に入っていく、NBAに行くってなったときに、まだ優しい」と自己主張をしきれない点は、U18の試合で経験を重ねる中での成長を願う。

 ▽長くバスケを

 ジェイコブスは東京五輪では八村が得意とする中間距離のシュートを見て「もう少しミッドレンジを使おう」と取り入れるなど影響を受けた。「自分が行きたいレベルでどうやって活躍しているかを見て、まねすれば活躍できると思っているので」と、目指す舞台との距離は意識している。

レブロン・ジェームズ=2018年9月、米カリフォルニア州エルセグンド(USA TODAY・ロイター=共同)

 「最初に練習に来て、最後まで練習する」を座右の銘とし「バスケが大好きだからできるだけ長くやりたい。一番は楽しいから」と話すなど根っからのバスケ好きだ。目指すのは20年後もバスケ選手であること。18歳でNBAにデビューし、昨年12月30日に37歳になったレーカーズのレブロン・ジェームズの姿に理想を重ねる。明るく周りを照らす存在にとの願いから「晶」と名付けられた大器は「チームはPGから始まるから、自分もリーダーとしてやりたい。PGは楽しい。一番できるって感じかな」とこだわりを口にし、目を輝かせた。

© 一般社団法人共同通信社