「堆肥戦闘」に続き薬草集めに追い立てられる北朝鮮国民

北朝鮮は、コロナ鎖国により深刻な医薬品不足に陥っている。価格が高騰し、物によってはカネを積んでもそもそも手に入らない。悩んだ末にアヘンを代用品として使う事例も報告されている。

そんな中、北朝鮮当局は、国内で原材料がまかなえる高麗薬(漢方薬)の生産に力を入れ始めた。

デイリーNK内部情報筋によると今月3日、保健省、各道、市、郡の人民委員会(道庁、市役所)に対して、内部の人員を総動員して高麗薬の生産に必要な薬草を最大限確保せよとの指示が、朝鮮労働党中央委員会から下された。

具体的には蒼朮(そうじゅつ、オケラの根)、苦参などの薬草を自主的に調達して、高麗薬の生産を計画通りに執行せよというものだ。前者は腎臓を保護し、後者は消化不良、神経痛、肝炎などに効果がある。ただ、今回の指示には薬草の具体的な量については明示されていない。通常の指示と異なる点だ。

情報筋は「コロナウイルス事態の長期化で、原料の多くを輸入に頼っていた合成医薬品の生産工場がほとんど稼働できなくなってしまったため」だとその理由を説明する。さらに「各地域の特性と実情に合わせて高麗薬を自主的に生産して患者を治療せよとの意味が込められている」と付け加えた。

両江道(リャンガンド)の各地域の人民委員会は今月4日、工場、企業所の機関長以上の幹部を集めて緊急会議を開いた。その場では、来月末までに大人1人あたり蒼朮と皇耆を1キロずつ納めさせよとの具体的な課題(ノルマ)が示された。

このようにして確保した薬草は、指定の病院や製薬工場に送り、その結果は地域の保険部門のイルクン(幹部)と合意した上で保健省に報告せよとのことだ。党中央委員会の指示とは異なり、供出から総和(評価)に至るまでのフローを明確に定めている。

新年から「堆肥戦闘」(人糞集め)に追いやられていた地域住民は、それが終わるとすぐに薬草集めに駆り出された。これに対して「非常防疫措置で地域間移動が遮断されていて山にも行けないのに、どうやって薬草を集めろというのか」「毎朝目を覚ますたびに課題だらけで、一日たりとも心休まる日がない」と不満たらたらだという。

指示通りに薬草が集まるかは不透明だ。北朝鮮では今回以外にも、薬草取りが繰り返されており、資源が枯渇気味で、かなりの山奥に入らなければ薬草が得られない状況に陥っているからだ。

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