人体を跡形もなく…金正恩の「処刑道具」生産工場での犯罪

北朝鮮にあまたある工場、企業所の中で最も重要視されているのは軍需工場だ。その労働者も、他の職場では得られない食糧配給も得られるなど、非常に優遇されている。そんな軍需工場で、くず鉄をネコババする事件が起きた。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件が起きたのは、中国との国境に接する朔州(サクチュ)郡の水豊(スプン)労働者区にある76号工場だ。自動小銃や高射銃、銃弾などを生産している工場だが、そこで働く労働者が製造過程で多く出るくず鉄をネコババしていたというものだ。

ちなみに高射銃は、14.5ミリ口径の重機関銃を数丁束ねた対空兵器だ。これほどの大口径火器は通常、ヘリコプターや軽車両への攻撃に使うものだが、金正恩氏はこれを公開処刑で使用。人体を跡形もなく吹き飛ばして、悪名をとどろかせた。

軍需工場は監視が非常に厳しく、通常ならこのような犯罪が発生することは非常に考えにくい。ところが、安全部(警察署)の警備中隊員や幹部などが労働者と結託したことで完全犯罪になるところだったが、国境地域で反社会主義、非社会主義行為を取り締まる82連合指揮部に運悪く摘発されてしまったのだった。

家宅捜索の結果、容疑者の家からは1人あたり1トンを超えるくず鉄が発見された。元々中国に密輸するつもりだったようだが、コロナによる国境警備の強化でそれができなくなり、自宅に保管していたものと思われる。

事件に関与した工場労働者と安全員11人は国家財産奪取罪でほとんどが労働教化刑(懲役刑)の判決を受け、関与の度合いが低かった人も労働鍛錬刑(短期の懲役刑)、撤職(更迭)の処分を受けた。ネコババしたのがくず鉄だったためこの程度の刑で済んだが、もし製品に手を出していたら、処刑されていただろうというのが、情報筋の見方だ。

今回の事件は、地元社会にも非常に大きな衝撃を与えた。

「以前なら軍需工場でこんな不正が起きるなんて想像すらしなかった」(情報筋)

優遇されているはずの軍需工場の労働者がなぜこんな犯罪に手を染めたのか。情報筋の説明では、数カ月間配給が中断しているためということだ。彼らは生活のほぼすべてを配給に頼り、他の地域の人々のように市場で商売をして生計を立てる術を知らないため、配給が途絶えるということは死に直結する。北朝鮮のコロナ経済苦の一旦が垣間見える事件だ。

「食べるものがないから、大胆にやらかしたようだ」(情報筋)

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