【作家の値うち】村上春樹『騎士団長殺し』(2017)  文藝評論家の小川榮太郎氏が現役作家100人の主要505作品を、100点満点で採点した『作家の値うち』が作品評を特別公開! 今回は皆さんお待ちかね(?)、日本の作家と言えばこの人という存在になった村上春樹氏の最新作です。

67点 4巻が致命的に弱く、作者が作品に無惨に敗れた

画家が主人公で、対象となる人間存在に肉薄する肖像画を軸とする構想は、魅力的だ。

二部構成、文庫本で4巻だが、3巻までは、従来の村上作品のルーティ ンを打破しようとする新たな挑戦と可能性を感じさせる。

何よりも、特定の人間や霊的存在が突出して物語を支配してしまう「水戸黄門の印籠」の濫用が影を潜めた。迷える子羊たる主人公のみならず、副主人公たちも皆、それぞれに葛藤を抱え、未知の人 生を生きており、文体は簡素になっているが、久し振りに文学的密度と精気を取り戻している。

ところが、残念なことに最終の4巻が致命的に弱い。

村上は自ら生み出した人物たちに、従来にない弱さと葛藤とを与え、作品に未知の可能性を設けたが、 結局、そのことのもたらす「謎」を、従前通りの作法で回収しようとしてしまう。が、生きた人間とし の奥行きを与えられた人物たちは、そうしたステレオタイプの回収にはなじまなくなっている。

作者が作品に無惨に敗れる顛末と評することもできようか。

小川榮太郎 | Hanadaプラス

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