2軍首脳陣から「我慢してくれ」 戦力外の4か月前から始めた“プロ人生の終活”

元中日・遠藤一星氏【写真:荒川祐史】

昨季限りで中日から戦力外、現役引退した遠藤一星氏

プロ人生の“終わり”が見えた瞬間、何をすべきか考えた。巻き返しに向けて自らを一層追い込むのはもちろん、現役生活の証しをどう残すか。昨季限りで現役を引退した元中日外野手の遠藤一星氏は「感謝を持って日々を過ごそうと決めました」と言う。戦力外通告に怯えるよりも、ひとりの選手として果たすべき役割を全うした。

7年もプロの世界にいれば、空気や予感には敏感になる。2021年シーズン、中日の外野陣は開幕から積極的に若手が起用されていた。チームの方針や状況を横目で見ながらファームで試合を重ねていたが、一向に呼ばれる気配はない。2軍の首脳陣からは「我慢してくれ」と言われるだけだった。

「あぁ、今年(戦力外が)あるなと。6月くらいに覚悟を決めましたね」

もう32歳。誰もが納得する結果を出せていない以上、世代交代に舵を切られてもおかしくないのは分かっていた。夏を迎え、東京五輪による中断期間が明けても、昇格の声はかからない。そして10月初旬、球団スタッフから「明日、球団事務所に行ってくれ」と伝えられた。4か月前の予感は、奇しくも的中した。

2014年のドラフト7位で、東京ガスから入団。大学、社会人をへたプロ入りで、常に「オールドルーキー」の肩書きがついて回った。1年目のキャンプから肩痛をごまかしながらやった結果、体のバランスを崩した。「痛みに強すぎて、体を壊したというのもあるかもしれません」と振り返る。

入団当初は遊撃手だったが、3年目の2017年から外野に転向。「試合に出られるところで」と、ポジションのこだわりはなかった。2019年にはキャリア最多の108試合に出場し、打率.270、2本塁打、11打点をマーク。代走や守備固めに加え、主力が抜けた際の“第4の外野手”として重宝されたが、2020年は65試合に出場数が減少。昨季は一度も1軍に呼ばれないままだった。

「出会ってきた人たちの存在が大きい」受けた恩を後輩たちへ

チームメートやスタッフ、関係者……。「この世界に入ってから、出会ってきた人たちの存在が、僕の中では大きいです」。自らが受けた数多の恩を、少しでも還元したい。先輩たちから教わってきた分、後輩たちに伝えてあげることが最後の責務であるとも思った。

同じ外野手の伊藤康祐や岡林勇希、三好大倫。さらに高卒1年目だった内野手の土田龍空ら、幸いにも慕ってくれる後輩たちは多かった。「みんな『エンさん、エンさん』って頼ってくれることも多かったので、たくさん失敗してたくさん怪我もした僕の経験を少しでも伝えられたらなと思いました」。普段以上に会話する機会を持ち、相談も受けた。

現役のユニホームにしがみつくことが、プロとしては正解かもしれない。ただ、終わり方は人それぞれ。球団代表から戦力外を告げられた時も「すっきりしていました」。12球団合同トライアウトも受けず、選手としての幕を引いた。

「このタイミングで戦力外になったのも、何か意味があるんだと思ってやっていきます」。何事も引きずらない快活さが性分。社会人としては、まだ32歳。やり切ったプロ野球人生に区切りをつけ、新たな道を歩んでいく。(小西亮 / Ryo Konishi)

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