【北九州市】コロナ禍で多様化する浪人生活 学費稼ぐ『自立型浪人生』も

2022年度の大学入学共通テスト(旧大学入試センター試験)が1月15日・16日に実施されます。

北九州市が発表している令和3年3月31日時点の年齢別人口を見ると、今年度の現役受験生に該当するであろう17歳が8263人。一方、昨年12月に文部科学省が発表した「学校基本調査(確定値)」によれば、大学(学部)進学率は54.9%と過去最高を記録しています。あくまで概算ですが、今年度の現役生に限っても、北九州市内で少なくとも5000人近い受験生が存在することになります。

少子化の影響もあり、数年のうちには大学進学希望者を入学定員総数が上回る「大学全入」時代になるのではないかと言われていますが、難関大学や難関学部を希望する学生が減少しているわけではありません。昔も今も変わらず、希望が叶わなかった場合に「浪人」を選択する学生が一定数います。

そんな浪人生の中には、アルバイトをしながら受験勉強を行う『自立型浪人生』もいると言います。令和時代の浪人生の実態を知るべく、地元密着で長年運営している八幡西区折尾の「大学受験のTG」に話を聞きました。

ここ数年で浪人生の生徒が増加

「大学受験のTG」は現役の高校生に受験指導をする塾でしたが、ここ数年で浪人生が増え、今では生徒のうち20%ぐらいが浪人生という状況だと言います。

大手予備校ではなく、少人数制の同校に通う選択をした生徒たちについて、いくつかのパターンがあると話すのは、「大学受験のTG」で受験生の学習管理を専門に行う「学習トレーナー」を務める植嶋先生。

「まず多いのが、高校で集団授業を受けていて今ひとつ伸びなかった生徒が、個人指導を中心としている当校へやってくるケースです。次に、自分の強化しなければいけないポイントが分かっている2浪3浪の生徒が、自分の強化したいポイントに絞って授業を受けたいとやってくるケース。また、高卒認定を受けた人やいわゆる自宅浪人として家で勉強していた生徒が、必要な教科だけの個人指導を受けたいと入塾するケースも多くあります」と話します。

代表の櫻井先生によると、「数学だけ教えてほしい、後の教科は自分で勉強するから勉強できる環境だけを提供してほしいと言う生徒もいます」とのこと。

画像はイメージ(提供/写真AC)

大学再受験を目指す生徒や、自らアルバイトで稼いだ学費で通う生徒も

また、少数派ではありますが、「大学受験のTG」には大学再受験を目指すような生徒や、アルバイトをしながら通う『自立型浪人生』もいると言います。

「大学再受験を目指すような生徒の中には、教科によっては学校の先生並みにできる教科がある生徒もいます。そういった人たちは自分に必要な教科だけを選択して受講できる環境が望ましいと考えています」と櫻井先生。

「大学受験のTG」では、アルバイトをしながら通う「自立型浪人生」を応援するシステムを取り入れているそうです。具体的には、アルバイトの給与明細を持ってきて、同校の学費をほぼ稼いでいるという生徒には学費の割り引きがあると言います。

「自分で稼いだお金を勉強のために使ってる生徒はいろんな意味で成長できますし、1回1回の授業を無駄にしないように必死に取り組みます。だからこそ、自分で学費を稼いででも通いたいという自立型浪人生のためにこの制度を設けました」と話します。入学金は不要のため、学費をアルバイト代でまかなえる生徒も多いそうです。

自分のペースで、メリハリをつけて

今回、実際にアルバイトをしながら「大学受験のTG」に通う「自立型浪人生」、Fさんに話を聞くことができました。

1浪目のFさんは、親に経済的負担をあまりかけたくないという気持ちを元々持っていたそう。「今年1年で決めてもらわないと困る」という親の言葉や、今後必要になる大学や専門学校の学費のことを考えた時、浪人という選択をすることで親にプラス1年負担をかけてしまうのが嫌だったと言います。

周りからは勉強だけに集中できるよう大手予備校を勧められたそうですが、「大学受験のTG」代表の櫻井先生から「TGは午後1時から午後10時まで毎日やっている。その時間をしっかり勉強に充てることができれば、どこかの大学には合格できる」と言われ、それならば塾以外の時間を活用し、塾の学費を自分で稼げばいいのではないかという気持ちになったとのこと。「親に対して気を遣わず、自分のペースでやりたい。支配されたくないという気持ちが強かった」と話し、「自立型浪人生」という選択をしたと言います。

受験勉強とアルバイトのメリハリをつけるため、アルバイトは週1日のみ。短時間ではなく、「夜間監視員」として長時間まとめて働き、アルバイトの収入で学費を支払っています。「未成年でアルバイトをしたことがなかったので、実際に働いてみてお金の大切さを初めて知りました。夜間の仕事を選んでしまったので昼夜逆転の生活になってしまい、慣れるまでは大変でした。でも周囲には浪人を経験した人が少なかったので『その状態でも勉強はできるやろ』と大変さを理解してもらいにくかったですね」とFさん。

TGの授業は週1回。それ以外は自習室や自宅で勉強しているそうですが、自分のさじ加減でゆるくしようと思えばいくらでもできる環境なので、自分の弱いところが見えたと言います。「志望大学の試験はこれからですが専門学校には合格できたので、浪人生活を1年で終えることができそうです。大変なこともあったけれど、気付きもたくさんありました。『好きなようにやっていい』と言ってくれた親、支えてくれた周りの人に感謝しています」と話してくれました。

受験生は共通テスト終了後に動く

画像はイメージ(提供/大学受験のTG)

少子化が進み、受験制度が変わっていく中で、受験生の選択肢は以前に比べ増えているのかもしれません。地元密着で市内の学生を応援する塾においては、個々の学生に合った細やかなサービスを提供していることも分かりました。

浪人生を含む受験生は毎年、共通テストが終わったタイミングで、二次試験対策のために個人指導を受講できる塾を探し始めると言います。今年度も1月15日・16日に行われる共通テスト後には、北九州市内でも受験生たちに大きな動きが見られそうです。

受験戦争を勝ち抜くために、今のうちから少しずつ情報を集め始めておくのがいいのかもしれません。

◆参考:文部科学省「令和3年度学校基本調査(確定値)」北九州市「北九州市の人口(町別)」より「年齢別」
◆取材協力:「大学受験のTG」(北九州市八幡西区折尾3-1-14)

※2022年1月15日現在の情報です

(北九州ノコト編集部)

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