2022年3月ダイヤ改正を読み解く JR本州3社のコロナ対応策は キーワードは「利用状況にあわせた輸送体系の見直し」【コラム】

上越新幹線の完全な主役になるE7系新幹線車両。デビューは2014年。トータルコンセプトは「大人の琴線に触れる『洗練さ』と心と体の『ゆとり・解放感』」。車両のデザインコンセプトは「〝和〟の未来」です(写真:m.Taira / PIXTA)

2021年~2022年の年末年始、JR旅客6社の新幹線と在来線特急(指定席)の利用客数は延べ893万8000人で、過去最低だった前年に比べて約2.5倍に増えた一方で、コロナ前の2019~2020年との比較では25%減と回復途上の印象を与えました。コロナ禍は一進一退。感染症再拡大を受けて、政府は沖縄県などにまん延防止等重点措置を適用、鉄道はもちろん、社会全般への影響が気になるところです。

そうした中、JRと関東圏の大手私鉄は2022年3月12日にダイヤを改正します。新ダイヤで各社が目指すのは、ウィズコロナ・ポストコロナ社会への対応。人々の行動様式が変わり、テレワーク普及や出張の減少、観光旅行需要も回復半ばといった状況を踏まえ、定期列車の一部を臨時列車化するなどで輸送力を調整し、コスト削減を目指します。3.12ダイヤ改正は本サイトでも一部紹介済みですが、ここではJR東日本、JR東海、JR西日本のJR本州3社の新ダイヤを概観。各社の狙いなどを探りましょう。

「輸送体系の見直し」とは

最初に総論。ダイヤ改正の各社資料で、目につくのが「利用状況にあわせた輸送体系の見直し」のフレーズです(表現は会社ごとに異なりますが)。鉄道事業者にとって最大の商品はダイヤ。現在運行中の列車の運休は、一般企業の製造中止と同趣旨です。

しかし、ストレートに「運転取りやめ」とするのはマイナスの印象も。そこで、「あくまで需要(利用状況)に供給(輸送体系)を合わせている」というのが鉄道各社の企業姿勢です。

JR各社は前回、2021年3月のダイヤ改正でも終電繰り上げなど、利用状況にあわせて輸送体系を見直しました。この時は、「終電時刻の繰り上げによる保守作業の効率向上」が理由に挙げられました。

当時を振り返れば、鉄道各社のある意味〝縮小再生産〟に社会的な反発はほぼありませんでした。コロナで苦戦する鉄道業界に社会が理解を示した、そして無言のエールを送ったとの見方も可能でしょう。

コロナ禍で迎える2回目のダイヤ改正。もちろん各社は輸送体系を見直すだけでなく、必要な列車増発や新サービスを打ち出します。それでは、JR東日本から新ダイヤのポイントをまとめましょう。

「会社発足後、最大規模のダイヤ改正」(JR東日本)

JR東日本は会社発足後、最大規模でダイヤを改正します。JR東日本の話では、平日ダイヤを基準とした定期列車の列車キロは改正後には3%減になるそうです。

新幹線は、上越新幹線にE7系12編成を追加投入。新しく「とき」上下4本と「たにがわ」上下8本をE7系で運転します。E7使用列車はそれぞれ「とき」で36本、「たにがわ」で19本になります。

上越新幹線には2021年秋の時点でE2系、E4系、E7系の3種類の新幹線車両が走っていたのですが、E7系への統合が一段と進みます。E7系は全席に電源コンセントがあるなどビジネス志向。車種統一は、車両整備などの効率化にも役立ちます。

東北方面の新幹線では、山形新幹線「つばさ」は全車指定席化。さらに、山形新幹線と秋田新幹線「こまち」の特急料金を見直して、分かりやすくします。短区間でも特急を利用してもらうことで、増収につなげる狙いもあります。

新幹線総体では、一部列車を臨時化します。東北新幹線「はやぶさ」は現行の定期58本から定期45本と臨時13本、上越新幹線「とき」は定期52本から定期48本と臨時4本、北陸新幹線「かがやき」は定期20本から定期16本と臨時4本になります。東北新幹線「なすの」や上越新幹線「たにがわ」には、一部運転を取りやめる列車もあります。

観光需要からビジネス・通勤需要にシフトする在来線特急

JR東日本の首都圏在来線特急のサービス改善一覧(資料:JR東日本)

在来線特急は、朝通勤時間帯の高崎線「スワローあかぎ」と京葉・内房線「さざなみ」を運転、東海道・山手線の「湘南」は新たに大崎駅に停車させ、着席サービスを向上させます。成田空港アクセスの「成田エクスプレス(NEX)」も、千葉停車列車を上下計で現行7本から29本と大幅に増やします。

これらに共通するのは、観光特急のビジネス・通勤需要へのシフト。コロナ禍にあって、「空いた列車に乗りたい」という需要にもこたえます。同じ傾向は、JR他社や私鉄にも共通します。

主要線区で思い切って運転本数を削減するのも、今改正の特徴といえるでしょう。ピーク時の1時間当たりの運転本数は東海道線が19本から17本、山手線外回りが21本から18本など、首都圏主要16線区で運転本数を見直します。

このあたり、一般利用客が減便を意識するかどうか。JR東日本もそうした点は十分に考慮してダイヤを改正するはずですが、社会がどう反応するのか、若干興味深い点です。

早朝・夜間の「のぞみ」を時間短縮(JR東海)

早朝・夜間時間帯に速達化が図られる東海道新幹線「のぞみ」。東京―新大阪間の平均所要時間は1分の短縮になるそうですが、鉄道事業者にとって、1分間の時間短縮がどれほど大変かは、本サイトをごらんの皆さんにはご理解いただけるでしょう(写真:ぺいさま / PIXTA)

JR東海は、東海道新幹線で早朝・夜間の「のぞみ」30本の所要時間を短縮します。東京―新大阪間は最大6分間速達化し、定期「のぞみ」の平均所要時間を1分短くして2時間28分で運転します。また、山陽エリアから新幹線利用での首都圏・名古屋への滞在可能時間を拡大します。

新幹線のダイヤ改正は、対面が欠かせないビジネス客にとって朗報。東海道新幹線は、現在でも列車容量はほぼいっぱい、増発の余地はあまりないはずで、早朝や夜間時間帯の輸送サービスを充実させて、新たなビジネス需要を掘り起こす目的が見て取れます。

在来線は名古屋エリアの中央線で輸送改善

JR東海名古屋圏の新しいエース車両・315系電車。省エネルギー化に取り組み、電力消費量を従来型の211系電車に比べて約35%カット。AI(人工知能)を活用した冷房機能の強化や座り心地の改善などで、「優しく安心感のある快適な移動空間」を提供します(写真:JR東海)

JR東海の在来線では、中央線名古屋―中津川間を終日全列車8両運転とし、一部の列車に315系新型車両を投入。2023年度中に全列車を315系に統一します。今後、編成両数は8両にそろえ、平日朝通勤時間帯に名古屋方面の列車を増発して対応します。

中央線ではもう一つ、朝夕の定員制快速列車「ホームライナー」の運転区間を名古屋―瑞浪間に統一します。名古屋圏の中央線沿線は人気上昇中のエリア、JR東海も輸送力整備に注力します。

北陸、和歌山、福知山、山陰方面の特急を増発(JR西日本)

JR西日本は、JR東海の情報とも重なりますが、山陽新幹線で博多―東京間の上り始発「のぞみ2号」の運転時刻を変更し、新大阪や東京に早着できるダイヤを組みます。

九州新幹線に直通する「さくら」と「みずほ」の一部は臨時列車とし、利用状況に応じて運転します。毎日運転の新大阪発鹿児島中央行き「みずほ615号」は、運転区間を熊本着に短縮。熊本―鹿児島中央間は臨時列車に変更します。

大阪発各方面の在来線特急は週末に増発

大阪と北陸エリアを結ぶ特急「サンダーバード」(前身は特急「雷鳥」)。使用車両は681系または683系交直流特急形車両です(写真:Jun Kaida / PIXTA)

在来線特急は、北陸方面の「サンダーバード」「しらさぎ」、和歌山方面の「くろしお」、北近畿方面の「こうのとり」「きのさき」「はしだて」、山陰方面の「スーパーはくと」「やくも」の各列車で、週末(金―日曜日と祝日)を中心に運転本数を増やします。サンダーバードは、月―木曜日が1日当たり44本(2021年11月実績比12本増)、週末は同じく50本(同じく12本増)を設定します。

週末増発には、観光客の利用を促進する目的があります。JR西日本関係者にとっては、コロナが収束に向かうのかどうか、気がかりなところでしょう。

一般(普通)列車は、エリアや時間帯ごとにダイヤを見直し。列車走行キロは2021年10月2日のダイヤ改正との比較で約4%の減少になるそうです。JR京都・神戸線(東海道・山陽線)、大阪環状線、大和路線(関西線)、阪和線では朝通勤時間帯をパターンダイヤに。広島エリアでは、可部線の朝夕通勤時間帯の4両編成列車を拡大します。

3.12ダイヤ改正では、JR東日本各支社やJR北海道、JR四国、JR九州、JR貨物の各社、私鉄でも、それぞれの創意工夫があふれます。JR北海道の札沼線あいの里公園―太美(ダイヤ改正で石狩太美から駅名変更)間には、新駅「ロイズタウン」が開業します。機会をみて紹介しましょう。

記事:上里夏生

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