紀勢本線と言えば、現在、283系振り子電車や287系パンダくろしお、更には683系を直流化改造した289系があります。
天王寺駅に到着した、283系オーシャンアロー
野田駅を通過する、287系くろしお
それ以前には381系振り子電車が走っていたのはご存じの方も多いかと思います。
実は、国鉄末期の昭和60年から1年間だけですが、485系を短編成化改造した特急「くろしお」が天王寺~新宮間を走ったことがありました。
これは、それまで気動車で残っていた、急行きのくにを格上げする目的で計画されたもので、天王寺~白浜間は8両編成、白浜~新宮間は4両編成で運転されました。編成は下図のようなイメージです。
この時、開かずの扉と言われた485系の貫通路が使われることになりました。
ただし、クハ481-200番代が不足するため、天王寺方には簡易型の貫通路とした、クハ480-800番代(サハ481、サハ489からの改造)が先頭車改造の上充当されました。
両数的には全部で11両が改造されています。
くろしお号で活躍中の写真が以下の写真です。
先頭車が、サハ481改造のクハ480で、キノコ型AU12形クーラーを搭載しているのがご覧いただけるかと思います。
どのような列車ダイヤだったのでしょうか?
当時の時刻表を参照してみますと、それまでの「急行きのくに」をそのまま格上げしましたので、停車駅も多く、更にスピードも白浜以遠は特にカーブでの速度制限が多くて、急行時代と殆ど変わらないものでした。
当時485系が使われた特急列車は以下の通りでした。
天王寺発
- ※くろしお54号 07:20→11:45 新宮着
- くろしお10号 10:00→15:17 新宮着
- ※くろしお62号 11:50→13:51 白浜着
- くろしお20号 14:00→18:36 新宮着
- くろしお28号 18:00→22:31 新宮着(串本から各駅停車)
- くろしお32号 20:00→22:22 白浜
新宮・白浜発
- 新宮発 くろしお03号 05:50→10:27 天王寺着
- 白浜発 くろしお09号 10:50→13:20 天王寺着
- 新宮発 くろしお17号 12:14→16:43 天王寺着
- 白浜発 ※くろしお59号 15:38→18:05 天王寺着
- 新宮発 ※くろしお61号 13:55→18:22 天王寺着
- 新宮発 くろしお29号 16:26→20:50 天王寺着
以上、当時の時刻表から抜き出してみました。
※は臨時列車となります。
なお、この時の停車駅は、かつての急行きのくにの停車駅ですので、海南、箕島、湯浅など急行停車駅にこまめに停まって乗客を拾っていく列車でした。
なにゆえ、485系電車による特急が誕生したのでしょうか?
一つは、電化後も気動車で残っていた、急行列車の電車化をしたかった、同時に特急化して増収を図りたかったと思うのですが、当時の国鉄財政では高価な振り子電車を作るわけに行かず、余剰気味だった485系電車を改造して充当することとしたわけです。
結果的には、重心も高い重い485系では、カーブでの速度制限が大きく、所要時間としては急行時代とさほど変わらないという結果となってしまいました。
当時の時刻表を確認しますと、天王寺~名古屋間は割引特急区間となっており、通常より割安な料金が設定されていたようです。
珍編成も1年で幕を下ろすことに
4両編成の485系による特急列車ですが、速度が遅く、最大で1時間半も違うと流石に不評もあって、昭和61年11月の改正では、381系に統一されることとなりました。
不足する381系に関しては「やくも」を短編成化して捻出した車両を使用することで賄ったと言われています。
その後、その任を解かれた485系電車ですが、この改造で誕生したクハ480形も、7両(1, 2, 3, 4, 7, 9, 10,11)は南福岡に転出、残りの3両は北近畿用としてCP・MGを搭載の改造などを受けて、クハ481-800番代として活用されたとされています。
より正確には、クハ480-6、8が先行して改造されてクハ481-800番代(MG・CP付)、クハ480-5がMGのみでクハ481-851に改番されたそうです。
南海電車にも485系導入を打診した国鉄
485系電車による「特急くろしお」は、速度の面で不評であったことから、381系に統一されることになりましたが、実は急行列車が気動車で残っていた原因の一つとして、南海電鉄からの気動車列車の乗り入れがありました。紀勢本線開通時(1959年)から乗り入れていた気動車列車をどうするかという問題がありました。
実は、当時国鉄は、南海にも485系を導入して貰えないかと購入を打診しています。
最終的には譲渡価格などで折り合いが付かなかったようで、この計画自体は白紙となるのですが、もし南海電鉄が485系電車を導入していたら紀勢本線の特急事情はもう少し異なった展開になっていたかもしれませんね。
【著者】加藤好啓