独立リーグでたった3試合投げただけ… ドジャースはなぜ無名の日本人右腕と契約を?

会見に臨んだBC茨城・松田康甫(右)と色川冬馬GM【写真:川村虎大】

色川GM「ベストな状態でトレーニングすれば、160キロは投げられる」

23歳の無名の日本人が海を渡ってメジャーリーグに挑戦する。ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツは17日、1年目を終えたばかりの松田康甫投手がドジャースとマイナー契約を結んだと発表した。昨季の登板はわずか3試合で、現在は右肘のリハビリ中。拓大時代も目立った成績を残したわけではない右腕をなぜドジャースは獲得したのか。夢の切符をつかんだ裏には、BC茨城・色川冬馬GMの“戦略”があった。

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色川GMが松田を初めて見たのは、一昨年に行われたBCリーグ合同トライアウトでのこと。拓大ではリーグ戦の登板がわずか1試合と決して有名ではなかったが、すぐにメジャーに行ける才能を感じたという。

「トライアウトでは144キロくらいを投げていましたが、ベストな状態でトレーニングすれば160キロを普通に投げられると感じました」

その予感は的中する。入団後は小山田拓夢投手コーチの「投げすぎるな」という指導のもと、球速がアップ。開幕戦の登板155キロを計測し、昨年4月16日の巨人3軍との交流試合では3者連続三振を奪った。NPBスカウトの注目も集める好投だったが、その試合中に悲劇が襲った。

色川GMは「試合中に『肘が痛い』と本人から話があって。(投球は)1イニングにしようと……」と振り返る。当初は、自身の血液から採取した多血小板血漿を患部に注射するPRP療法での回復を図った。しかし、症状は改善されず、7月に右肘の内側側副靱帯再建術(トミー・ジョン手術)を受けた。

大卒の独立リーグ所属選手のNPB入りは、ただでさえハードルが高い。まして手術を受けたとなると、なおさら厳しくなる。「実際に手術を受けると、NPBのスカウトからは連絡がほとんどなくなりましたね」と色川GM。ただ一方で、MLBなら先を見据えた契約をしてくれると確信していた。

MLBスカウトに動画やレポートで売り込み、複数球団からオファーが

「メジャーのスカウトは日本の独立リーグに即戦力は求めていないんです。本人もメジャーへの思いがあったので、マッチするなと」

色川GMは大学時代から単身渡米し、自らエージェント会社「アジアンブリーズ」を創設。世界の野球市場へ選手を送り込んできた。その人脈を通じて、MLB球団のスカウトに巨人3軍戦の動画やレポートを送って売り込んだ。すると193センチの長身から投げ下ろす155キロの直球と、鋭く落ちるスプリットが高く評価され、ドジャース以外にも複数球団からオファーがあったという。

ドジャースを選んだのにも理由がある。過去に野茂英雄投手や、前田健太投手(現ツインズ)がプレーしており「日本人が多く在籍していて理解がある。専門医がいて、(トミー・ジョン手術後の)リハビリのノウハウも進んでいるんです」。松田は3月に渡米予定で、当初はチームに帯同せず、球団施設でリハビリに専念する予定だという。

「現状、独立リーグは月収10万円から最大で40万円。その年収で結婚して家族を養えるかと言ったらそうではないんです。だから選手には『1シーズンで出て行ってください』と常に言っています。その代わり『出口は必死で探します』って」

無名の日本人がドジャースへ。異色の契約の背景には、選手と球団のニーズを擦り合わせた色川GMの尽力があった。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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