アブないモノなら何でも買える!『シルクロード.com -史上最大の闇サイト-』は驚きの実録サイバー犯罪捕物劇

『シルクロード.com ー史上最大の闇サイトー』©2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

💻サイバー犯罪史に残るダークウェブ事件

映画『シルクロード.com -史上最大の闇サイト-』のテーマは、かつて「違法薬物版eBay」と称されたダークウェブにまつわるサイバー捕物だ。だいぶ前から映画化待ったなしと言われていた歴史的サイバー犯罪の興隆と終焉を描く、驚きの実話に基づいたクライム・サスペンスである。

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『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)や『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(2014年)、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)で知られる“笑顔ゼロ俳優”ことジェイソン・クラークが演じるリック・ボーデンは、麻薬組織のボスにブチ切れて捜査を台無しにして謹慎させられていた元アル中の刑事。80年代だったら間違いなくメル・ギブソンが演じていたであろう“ぶっきらデカ”だ。リックのキャラクターは実際の捜査に“携わった”複数の人物をミックスしたものだそうだが、ともかく彼はMIT出身者揃いのサイバー犯罪課に飛ばされてブーたれている。

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かたやデジタルに強い青年ロス・ウルブリヒトを演じるのは、『キングス・オブ・サマー』(2013年)や『ジュラシック・ワールド』(2015年)、『Love,サイモン 17歳の告白』(2018年)のイケメン、ニック・ロビンソンだ。ウルブリヒトは二十代半ばにして、匿名で“何でも”売買できる<シルクロード>を立ち上げた実在の人物。シルクロードは、米海軍や国防計画局などの援助を受けて開発された暗号化通信方式トーア(The Onion Router)経由でしか利用できず、かつ支払いも暗号通貨ビットコインを用いるという前代未聞の闇商店だった。

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時代遅れの中年刑事と天才IT青年:対象的な二人の主人公

やはり本作の面白みは、そんな主人公二人の対比にある。「インターネットABC」みたいな動画を見ながらラップトップと格闘しメール一通まともに送信できないデジタル音痴な刑事と、セキュリティの死角を突いた暗黒ビジネスを発明した天才青年。一回り以上若い上司に「こちとらテメーがタマの毛を剃り始める前からデカやってんだよ!」とキレる中年と、完全に違法だが「世界を変えたい」と謳う若きリバタリアンである。

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控えめに言っても住む世界が違いすぎる両者だが、このお話は事実に基づいているので、少なくとも結末だけは決まっている。古き良き“足で稼ぐ”捜査しかできないのに、一体どうやってサイバー犯罪のホシをあげたのか……めちゃくちゃ気になるではないか!! ただし実際の顛末は、本作を観てから答え合わせ的に確認するべきだろう。

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当然のことだが、違法薬物の売買にはリスクがつきものである。売る/買うために外出することが、そのまま“お縄”の可能性に繋がるからだ。シルクロードがバカ受けしたのは、PCでポチれば様々なドラッグが買えたからであり、暗号化による安全性が無数の前例によって証明されていたことも信頼性を高め、ユーザー拡大に貢献した。信頼と安全をウリに、闇マーケットの昔ながらの常識を一気に覆したのである。

『シルクロード.com ー史上最大の闇サイトー』©2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

天才の考えは常人には理解不能と言われるが、本作のウルブリフトはIT系にしては珍しく右寄りで、かつ非常に人間くさい。シルクロード利用者が増加=手数料によって億万長者(1分間に800ドル以上の売り上げ=1日で1億円超!)にはなったものの、国家レベルの騒動を起こしたことに涙目で動揺したりもする。人生経験に乏しい20代半ばでイリーガルに成功を収めたら誰でもそうなるのかもしれないが、次第に舵取りが困難になっていったシルクロードでは、粗悪なドラッグや銃器が売買されるようになっていく。

『シルクロード.com ー史上最大の闇サイトー』©2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

そんなこんなで実録ドラマとして非常に見応えがある本作だが、最近では珍しいフリーズ・フレームを多用したり、なんとキャストがカメラをチラ見してしまう瞬間まであったりする。例えるなら豪華な再現ドラマというか、過剰にドラマチックな演出が施されたドキュメンタリーみたいなのだ。そこまで気になるレベルではないものの、どうにも不思議な味わいを醸し出していて、もしかしたら好き嫌いが分かれるところかもしれない。

『シルクロード.com ー史上最大の闇サイトー』©2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

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監督のティラー・ラッセルは、劇場映画としてはケレン味あふれるギャル西部劇『トゥルー・リベンジ』(2010年)くらいしか代表作がない人だ。しかし、ロシア極道×麻薬ビジネスのスケールが異常で笑うしかない『オデッサ作戦』(2018年)や、80年代NYブルックリンの汚職警官を回想する『The Seven Five』(2014年:未公開)といった犯罪系ドキュメンタリーを手掛けてきたと聞けば、それらの小さな違和感にも合点がいくだろう。

とはいえボーデンの家族、とくに学習障がいを持つ娘の存在は“死にものぐるいで頑張る理由”としてうまく機能しているし、彼が刑事として一線を越えてしまう動機としても十分だ。職場に居場所がない時代遅れの刑事が、最先端の犯罪流通プラットフォームを運営する若者を、昔ながらの老獪な手段を流用して追い詰めていく展開も小気味いい。そして90~00年代の実話系サイバー犯罪映画などに比べると、派手なフィクション演出がないのは誠実とすら言える。

『シルクロード.com ー史上最大の闇サイトー』©2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

また、情報屋を演じるダレル・ブリット=ギブソンや、サイトの金庫番を演じるポール・ウォルター・ハウザーも非常にイイ味を出していて、彼らの存在がなかったらお話の息苦しさに途中で参ってしまうかもしれない。実際の事件について調べずに観たら色んな意味でびっくりすること請け合いなので、2010年代最大のサイバー犯罪の顛末を確認するくらいのつもりで、気軽に劇場で鑑賞してみてはいかがだろうか。

『シルクロード.com -史上最大の闇サイト-』は2022年1月21日(金)より新宿バルト9ほか全国公開

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