「1年で出て行ってくれ」無名右腕がドジャースと契約、BC茨城GMが考える独立Lの在り方

BC茨城・色川冬馬GM(左)と松田康甫【写真:川村虎大】

過去には5人のNPB選手を輩出しているBC茨城

2018年からルートインBCリーグに加盟した茨城アストロプラネッツは、独立リーグの世界で有数の“実績”を残している。今季が5年目と歴史は浅いものの、オリックスのセサル・バルガス投手を筆頭にNPBへ選手を送り込み、17日には学生時代は無名の155キロ右腕・松田康甫投手がドジャースとマイナー契約を結んだと発表した。なぜ次々と、最高峰の舞台へ選手を送り出すことができるのか。そこには世界的に視野を広げ、選手と球団をマッチさせるBC茨城ならではの取り組みがある。

BC茨城にはバルガスだけでなく、昨季は元ソフトバンクのダリエル・アルバレス内野手も所属していた。また、昨秋のドラフトでは、山中尭之外野手(オリックス育成1位)、大橋武尊外野手(DeNA育成3位)が育成契約ながらNPB入りするなど、これまで5人の選手をNPBに送り込んでいる。

ここまでの実績を残せる理由は、球団が独立リーグの「存在意義」をしっかり理解しているからだ。2020年からGMに就任した色川冬馬氏は「選手には『1シーズンで出て行ってくれ』って言っているんです」と語る。

独立リーグの選手は野球で収入を得る“プロ”ではあるが、月収は10万円から多くても40万円ほど。NPBのように活躍によって収入が伸び、生活が保障されるわけでもない。リーグの名称にも「BC(Baseball Challenge)リーグ」とあるように、本来の目的は次のステージへ選手を送り出すことだ。色川GMは「もちろん試合をする以上は勝ちにこだわるんですけど、それよりは選手に伸び伸びやってアピールしてほしいんです」と語る。

色川GM自ら選手を売り込みやスカウトを行う

色川GMは茨城から“世界で活躍する人材”を送り出すことを目指している。なぜかと言えば「米国にもたくさんの選択肢があることを、選手は知らない」からだ。自身も、大学在学中の渡米を皮切りに5か国でプレー。2019年には、日本と米国を結ぶ「アジアンブリーズ」を創設した。自身の経験や人脈を武器に、世界各国からNPBを目指す選手と交渉し迎え入れる。日本からは逆に、MLBへ昇格できるような素質のある選手を直接スカウトに売りこんだ。

その努力が実を結び、大リーグでのプレーも経験したバルガスやアルバレスがBC茨城に入団。彼らが日本人選手に与えた好影響を、色川GMは指摘する。

「彼らは、母国では月収100万円から150万円を稼ぐような選手なんです。その選手らが、独立リーグでプレーするというリスクを背負って、NPB入りを果たした。夢をつかむにはリスクが必要なんです」

自らも大学時代に単身渡米し、様々な国を渡り歩いた。当時は、飛行機代にも事欠くなど、苦難の連続だった。それでも、自ら道を切り開いた経験が、現在では仕事のベースとなっている。

「選手らはもっと自己投資をしてほしいです。そして僕たちはその『出口』を全力でサポートするんです」。その姿勢がある限り、松田のような、独立リーグから米球界という切符をつかむ選手が今後も出てくるに違いない。BC茨城はこれからも、日米球界の“勢力図”を動かしてくれそうだ。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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