<社説>基地からの感染拡大 米軍任せの対策は限界だ

 2020年夏に県内で流行していた新型コロナウイルスが米軍由来ではなく、東京の感染と同じグループだと説明されてきた件について、その根拠となるゲノム解析の結果が残されていないことが判明した。なぜ失われたのかを明らかにしなければならない。 米軍内での感染について情報が得られず、県が国立感染症研究所に解析を依頼していた。米軍の対策はあまりに不備が多い。国民の命を守るため、防疫に関する措置の網を米軍にかぶせる必要がある。

 21年12月には、クラスター(感染者集団)がキャンプ・ハンセンから拡大し、県内で感染が広がった。20年の解析結果がさらに検証されていれば、その後の対策に資する部分もあったと考えられる。

 20年6月から7月にかけて本島中部で米軍関係者らが数百人規模で参加したイベントなどがあり、その後、普天間飛行場やキャンプ・ハンセンでクラスターが発生した。県内での感染者について県は感染研にウイルスの遺伝子解析を依頼。この結果として国の専門家組織は「東京から由来したものだと理解している」としていた。

 感染研と県に開示請求した調査団体インフォームド・パブリック・プロジェクト(IPP)の河村雅美代表は「米軍基地からの移入の否定が対米軍基地の感染対策を緩めさせた側面も考えられることから検証が必要だった」と指摘し、データが残されていないことを問題視している。米軍由来を否定する根拠はなぜ失われたのか、十分に検証する必要がある。

 駐留する地域の住民への影響は考慮していないと思わざるを得ない米軍の新型コロナ対応が続いている。

 21年9月以降、米軍関係者が米国から在日米軍基地に入る際、本国出国時のPCR検査義務が解除されていたことも判明した。その後、日本への出国72時間以内に検査を実施するよう改められたが、ワクチンの2回接種者は入国後の移動制限期間中も基地間移動が認められていたことも分かった。感染防止について米軍の実効性は全く期待できない。

 韓国では米軍関係者の入国後に韓国側が検査を実施しているが、日本では検査を拒んでいる。米軍の措置の“抜け穴”が指摘されながら、基地からの感染の「染み出し」が続くのは、米軍に国内法が適用されないことに理由があることは明らかだ。入国時の検査に国が関与できないことは防疫上の危機である。

 岸田文雄首相は施政方針演説で米軍の感染症対策について日米合同委員会で協議すると述べたが、遅きに失した。

 米軍基地のある地域での感染急拡大について閣僚らは米軍が感染の要因である可能性をようやく認めだした。そうであるならば、感染防止のための国内法の適用を阻んでいる日米地位協定の改定に一日も早く着手すべきだ。

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