【客論】大和総研主席コンサルタント 林正浩 「世界は変わる」と信じたい

 SDGsをテーマとした本連載も今日が最後です。おかげさまで商工会やロータリーなどからの講演依頼も増えました。国連からもお給金を頂きたいくらいです(笑)。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」。これは山形県出身の作家井上ひさしさんの言葉です。この姿勢を大切にSDGsに迫りました。少しでもその本質がお分かりいただけたなら、本当にうれしいです。

 さて、SDGs礼賛でここまでお伝えしてきましたが、最後に問題提起をします。皆さんは「宗教は大衆のアヘンである」というマルクスの言葉をご存じですか。資本主義の発展により、さまざまな矛盾や不都合が生じることは必然である。それを癒やす、誤解を恐れずにいえば、そこから目をそらさせる「アヘン」、即ち麻薬のような存在が宗教である。簡単にいえばそういうことです。

 この文脈になぞらえて、SDGsを「大衆のアヘン」という人も少なくないのです。人類の活動により気候変動は既に制御不能、格差問題も修復不可能な状態。もう何をやっても救いはない。元に戻らない。そもそもSDGsは「持続可能な開発目標」ですから、こんな状態になっても地球の「開発」を人間はやめられない。だからこそアヘンとしてのキレイゴト(SDGs)で塗り固める必要があるという考えですね。

 人間の活動の痕跡が地球に刻まれた瞬間から、この矛盾や不都合をはらみ続けていました。それらを無視できなくなった頃から、宗教という麻薬を使い、破滅の道に向かう地球に対し、民間の力まで借りて「SDGs」という新しい麻薬を使い続けている。そう考えるとカラフルな17のタイルがうさんくさく見えますね。

 SDGsは大衆アヘンなのか。私には分かりません。ですが、新型コロナウイルスの流行が私たちに気づきを与えてくれました。確かにコロナの流行は世界に多大な不幸や不都合をもたらしましたが、世界の経済活動を同時に止めてしまうという前代未聞の社会実験を伴いました。その結果、私は写真でしか確認していませんが、中国の上海上空は息をのむほどきれいになり、タイの沿岸にはイルカが戻ってきたのです。

 「地球はもう戻れない」「アヘンでごまかすしかない」と割り切るのは早いのではないか。コロナ禍で、劇的に改善される地球環境を前に、少し希望を持ちました。一方、大量の不織布マスクや医療用のガウンが廃棄され沿岸を汚しています。本当にどう考えればよいのでしょうね。

 でも世界は変わる。そう信じたい。ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェス氏によると世界のわずか3・5%の人々が非暴力的な方法で本気で立ち上がると社会が大きく変わるそうです。まだ間に合う。今こそ3・5%の力を見せ、あと8年で変わろう。皆さん、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 はやし・まさひろ 1969年、新潟市生まれ。「笑顔の連鎖反応をつくる」をモットーに経営人材育成、中小企業支援などに携わる。東京都。

© 株式会社宮崎日日新聞社