世界中の天文学者が酔いしれる「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」のすべて 第4回 世界で最も複雑な望遠鏡、展開に成功 - 早ければ春にもファースト・ライト

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米国航空宇宙局(NASA)などは2021年12月25日、「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」を打ち上げた。

JWSTは、宇宙初期に生まれた星や銀河の光や、太陽系内にある天体、さらに太陽系外にある惑星まで、宇宙のさまざまな時代や姿を観測することができ、数多くの新しい発見をもたらすと期待されている。

連載第4回では、そんな発見をもたらすために投じられた、さまざまな最先端技術と、現状と今後の予定について解説する。

世界初の観測を実現する最先端技術

本連載の第2回

では、JWSTはハッブルとは異なり、赤外線を中心に宇宙を観測するということ、そしてでは赤外線で見ることでどんな発見が期待できるのかについてみてきた。

それを実現するため、JWSTは最先端の技術が数多く投じられている。

JWSTはなんといっても、その特徴的な姿かたちが目を引く。まるで、銀色の船体に金色の帆を掲げた帆船のようにも見える。

その帆の位置にあたる金色の部分は、望遠鏡の主鏡である。その直径は6.5mもあり、ハッブルよりも直径で約2.5倍、面積では約6倍と、これまで打ち上げられた宇宙望遠鏡の中で最大を誇る。これにより大きな集光能力を実現。ハッブルよりもはるかに過去の宇宙を観測することができるようになっている。

主鏡は18枚の六角形の鏡から構成されており、その一枚一枚、軽量かつ堅牢なベリリウムでできている。ただ、ベリリウムは赤外線を反射しにくいため、表面に赤外線をよく反射する金を薄くコーティングしている。そのため、金色に輝いているのである。

帆船の船体にあたる銀色の部分は、望遠鏡を太陽などの熱から保護し、冷却するための「太陽シールド」である。

遠くの天体や塵に隠された天体からのほのかな光を見ようとするには、なるべく高い感度でその光を捉えるようにしなければならない。そのためには、太陽はもちろん、地球、さらには宇宙機の機体自身から放射される熱すらも防ぎ、望遠鏡や機器を絶対零度近くにまで冷却する必要がある。

これまでの赤外線宇宙望遠鏡は、液体ヘリウムなどの冷却材を使った“液冷”を使ってきた。しかし、冷却剤がなくなると望遠鏡が使えなくなるという欠点があった。

そこでJWSTでは、シールドを広げ、太陽や地球、機体からの熱を遮断することで望遠鏡を冷却するという仕組みを採用した。冷却材を使用しない赤外線宇宙望遠鏡は史上初となる。

このシールドは、アルミニウムでコーティングしたカプトンのシートを5層重ねて構成されており、NASAは「SPF 100万の日焼け止め」と形容する。その大きさは20m×12mもある。これにより、望遠鏡と機器をつねに50K(-223℃)に保つことが可能となっている。

望遠鏡も太陽シールドも、打ち上げ時にはロケットに搭載するために折り畳んでコンパクトになっており、宇宙空間で展開するようになっている。開くための機構はきわめて複雑で、どこかひとつが失敗すれば全体に影響するような箇所が344個も存在する。

JWSTにとって、宇宙の始まりや生命の痕跡を見ることがサイエンスにおける挑戦であるなら、打ち上げ時の形態から観測を行うための形態へ変形することは、エンジニアリングにおける挑戦といえよう。

望遠鏡の裏側には、「統合科学機器モジュール(ISIM)」という、カメラなどの機器が集まった箱のような部分がある。ここには「中赤外線機器(MIRI)」、「近赤外線スペクトログラフ(NIRSpec)」、「近赤外線カメラ(NIRCam)」、「ファイン・ガイダンス・センサー/近赤外線イメージャー・スリットレス・スペクトログラフ(FGS-NIRISS)」という4つの機器と、それに付随するサブシステムが納められている。望遠鏡とともに、これらの機器もハッブルよりも観測できる波長範囲が広く、さらに感度が大幅に向上しており、その卓越した性能を実現する大きな要素となっている。

シールドを挟んで望遠鏡の反対側には、宇宙機バスがあり、太陽電池や姿勢制御装置、通信機器、コマンド・データ処理装置、スラスター(推進系)、そして熱制御機器が収められている。

打ち上げられたJWSTは、地球から約150万km離れた、太陽・地球系のラグランジュ点L2のまわりを回るハロー軌道に配置される。この場所は、地球と月から遠く離れているため、それらから放出される赤外線の影響を受けずに済むという利点がある。

また、JWSTと地球、そして太陽との位置関係がつねに同じで一直線に並ぶため、つねに望遠鏡を宇宙に向けつつ、太陽電池や通信機器を太陽と地球の方向に向けることができる。これにより、天体の導入(ポインティング)精度も向上。地球を周回しているハッブル宇宙望遠鏡よりも高い観測効率を実現している。

ただしその反面、距離が遠いため、通信や観測データの送信はやりづらくなる。また、L2のハロー軌道は完全には安定していないため、軌道を維持するために定期的にスラスターを噴射しなければならない。前述した運用期間は最大10年ほどというのは、そのための燃料の搭載量からきている。

また、ハッブル宇宙望遠鏡は、スペースシャトルを使って宇宙飛行士を送り込み、修理や性能向上のための改修を行うことができたが、JWSTはこの遠さのため、赴くことは難しい。もっとも近年、古くなった衛星に対して燃料補給や修理を行う衛星が登場しつつあるため、無人の補給・修理ミッションであれば実現する可能性はあるかもしれない。

いざファースト・ライトへ

2021年12月25日に打ち上げられたJWSTは、無事に観測を行うL2点へ向かう軌道に投入。ロケットの軌道投入精度が高かったため、JWSTの運用寿命が若干伸びるというおまけつきだった。

ロケットからの分離後、JWSTはまず太陽電池の展開から始めた。続いて、太陽シールドなどを載せるパレットを展開。1月1日からは太陽シールドの展開が順次始まり、途中確認などを挟みつつも順調に進み、1月5日に展開を完了した。

そして1月6日からは望遠鏡部分の展開がスタート。まず副鏡を支える三脚の展開から始まり、8日には主鏡の左側、翌9日には右側が展開された。こうして、宇宙開発の歴史に残る大きな技術的挑戦を無事に完了したのである。

1月17日現在、各機器は正常で、各鏡の微調整や軌道修正などを行いつつ、L2点へ向け順調に航行している。L2点のハロー軌道への到達は、打ち上げから約1か月後の予定となっている。

その後は数か月かけて、望遠鏡の調整や科学機器の校正を実施。順調にいけば、打ち上げから5~6か月後ごろには最初の画像撮影“ファースト・ライト”を迎える予定となっている。その最初のターゲットは、ハッブル宇宙望遠鏡の撮影プロセスと同様に、計画に参画しているNASA、ESA、CSA、科学コミュニティの参加者による検討によって選ばれることになっている。

そして早ければ、夏前にも科学運用が開始。宇宙で最初に生まれた星、銀河、恒星や惑星の誕生、もうひとつの地球、そして生命の起源――宇宙に潜む数多の謎に迫る、現在の人類が持ちうる最高の宇宙望遠鏡の大挑戦が始まることになる。

鳥嶋真也

とりしましんや