Vol.65 何を伝えるか、伝えるべきことを演技で表現できているか――オーディション審査員を終えて[土持幸三の映像制作101]

先日、筆者が以前、何度か講師を務めさせていただいた、俳優のための演技ワークショップ、ゴールデンエッグプロジェクト(以下GEP)で制作する長編作品のオーディションがあり、審査員として臨んだことを書こうと思う。

GEPは毎回、様々な映画監督のワークショップの最後に仕上げとして短編映画を制作し、映画館で上映することになっているのだが、今回で記念すべき10回目を迎えるとのことで、長編映画を制作することになり、筆者が脚本と撮影・編集を担当することになっている。脚本は今回、監督をされる香月秀之監督と共同で執筆し、企画は昨年後半から練り始め1月中旬の段階で準備稿が仕上がっている状況だ。このワークショップは俳優を映すことに重きを置いているので脚本も普段の物語より若干違うものにならざるを得ない。

筆者が講師を務めて15分の短編映画を制作した際は、全体で5~60名程度の参加者の中から他の監督とドラフト会議のようなものを経て選んだ10数名が1本の短編映画に参加するスタイルで、筆者の短編映画に参加する俳優にいわいる「当て書き」をして脚本執筆を進めていったのだが、今回は70名以上の俳優たちを1本の長編映画に参加させるので「当て書き」は難しいうえ、オーディションで選ぶことになるキャラクターもあることから、当然ではあるが、まずはストーリーをつくり、ある程度仕上がった時点で俳優たちに合わせてアレンジしていく方法をとることにした。演技力の違うこれだけ多くの俳優それぞれにセリフを与え、物語をまとめるのは筆者にとって初めての経験でとても貴重であると感じている。

昨年末、ある程度内容が出来上がりつつあるときに一度、1クラス6~10名程度に分かれているワークショップにお邪魔して、参加俳優たちの演技を確認し、香月監督やGEPのプロデューサーと協議しながら、どの役のオーディションをするか、そのオーディションに誰を呼ぶかなどを決めていった。

今回、男性が3つの役、女性が2つの役をオーディションすることになり、集まった俳優たちには現段階での脚本の一部があらかじめ渡され、それぞれに自らが考えた衣装を着てもらって参加してもらった。一緒にそのシーンを演じる相手を何人か変え、相性や見た目のバランスも考えながらオーディションは進められた。審査員として注意して見ていたのは、もちろんルックスもあるが、俳優たちが、このシーンで何を伝えないといけないか、どのセリフに一番注意すべきかを考え、それを演技で表現できているかである。

オーディションがはじまると、既にワークショップ時に世界観は伝えられ、脚本の一部を演じているとはいえ、それぞれの俳優がじっくりと役に対しての準備をおこなっており、ある役者はそのキャラクターの幼かった頃からの履歴書をつくり、それを役作りに活かしたと話していた。

難しい所は、いくら頭で考えても、自身では思うように演じているつもりでも、それが表現できているか、見る人に伝わっているかは別の話しで、その違いが少ない俳優は少ないかもしれない。また、セリフを覚えることは当然ではあるが、それで頭の中がいっぱいになってしまうと自分の表情が乏しくなったり、相手のセリフに対してのリアクションを行わないまま次のセリフを話したり、俳優の演技をオーディションの審査員としてみると実に様々なことが見えてくる。

オーディションが終わったあと、同じく審査員だった香月監督、GEPのプロデューサーと話し合いが持たれ、それぞれに感想を述べた。審査員の考え方は様々で面白く、参加した俳優たちに聞かせたいぐらいだった。

この作品は2月に撮影予定であるが、コロナ禍での撮影となり普段以上に制作サイド、俳優たちも注意することが多くなるが、楽しみでもある。俳優たちの奮起に期待したい。

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