日本トリオ、セルティックで鮮烈デビュー 前田大然が文句のつけようのないゴール

スコットランド・プレミア ヒバーニアン戦の前半、移籍後初ゴールを決めるセルティックの前田=グラスゴー(共同)

 前田大然(前横浜F・マリノス)、旗手怜央(前川崎フロンターレ)、井手口陽介(前ガンバ大阪)。この冬にスコットランドのセルティックに移籍した3人が派手なデビューを飾った。現地1月17日のヒバーニアン戦で、前田は開始4分に先制ゴールを挙げ、旗手はマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。後半29分から投入された井手口は2―0でリードした試合をうまく締めくくった。

 1873年創立と世界で2番目に古いサッカー協会(FA=フットボールアソシエーション)を持つスコットランド。伝統はあるが、欧州五大リーグに比べれば、レベルはかなり落ちると思われる。グラスゴーに本拠を置くセルティックとレンジャーズの2強以外は、技術面や戦術面でJリーグの上位チームより劣るのではないか。もちろん、フィジカルコンタクトでは勝っているだろうが。

 一足先に緑のユニホームに袖を通し、ゴールを量産している古橋亨梧。彼も含め、欧州でのステップアップに野心を燃やす選手にはスコットランドはちょうどいいレベルのリーグなのかもしれない。

 欧州に渡った当初、トップレベルからは少し劣るオランダに渡った本田圭佑、吉田麻也。ベルギーでスタートした遠藤航や冨安健洋。そしてオーストリアの南野拓実。彼らはいきなりトップレベルのリーグに身を置かなかったのが結果としてよかった。常に欧州のスカウトの目につく環境でありながら、自分のレベルにあったリーグで成長し、セリエAやブンデスリーガ、プレミアリーグに戦いの場を移した。

 ただ、いわゆるプレミアリーグのビッグクラブから最初に声が掛かった選手は気をつけなければいけない。浅野拓磨はアーセナル、板倉滉はマンチェスター・シティーから声が掛かって欧州に渡った。

 しかし、非EU国籍の選手がプレミアリーグでプレーするには外国人労働許可証が必要になる。それを得るにはFIFAランキングの順位や過去2年間のフル代表の公式戦出場数といった条件がある。これらを満たす若い選手が何人いるだろうか。

 きつい表現になるかもしれないが、浅野や板倉はローン移籍を繰り返し、残念ながらアーセナルやマンチェスター・シティーでプレーする可能性は薄いのではないだろうか。

 20年前、日本の素晴らしい才能がアーセナルに渡った。日韓W杯で2得点を決めた稲本潤一。しかし、世界のひのき舞台で鮮烈な活躍を見せながらも、アーセナルでのリーグ戦出場はかなわなかった。その後、フラムでプレーするなどプレミアリーグに足跡を残した。だが、ロンドンのビッグクラブではカップ戦に2試合出場しただけだった。

 現在、セルティックは日本選手がプレーしやすい環境が整っているのではないだろうか。まず、中村俊輔という先駆者がこのクラブに偉大な足跡を残し、日本選手に対して好意的だ。加えて、昨季の夏場から加わった古橋がゴールを重ねることで新たなエースとなっている。

 英国人は保守的だと感じる。特にフットボールに対しては発祥の地としてのプライドがあるようだ。その頑固さを「シュンスケ」と「キョウゴ」という日本選手が和らげているのは疑いない。

 さらにポステコグルー監督の存在は、4人の日本選手にとっては何より心強いだろう。自らのプレースタイルを認められて獲得されたのだから、新しいチームに行ったからといって必要以上に自分をアピールしなくていい。ポステコグルー監督が求めることを、Jリーグでプレーしていたときと同じようにこなせばそれでいい。

 今回加わった3人のプレーは、ピッチで一緒に練習を行えば、チームメートもすぐ認めるものとなるだろう。技術的に高いのはもちろん、彼らはJリーグでも信じられないほどの運動量を誇る選手だった。その走力を目にすればチームの誰もがすぐ認める存在となるはずだ。

 Jリーグから欧州に渡る選手は、欧州の感覚で言えばタダ同然の移籍金で獲得できる。だから当初は懐疑的な見方もあったようだ。それを黙らせるには、試合で活躍するしかない。特に攻撃の選手は、ゴールを挙げることにより一瞬でチームの一員として認められることが多い。その意味で前田のゴールは、とても価値のあるものだった。

 それにしてもいい得点だった。右サイドのロギッチから送られたグラウンダーのラストパス。ゴール正面でボールを呼び込んだ前田は右足ダイレクトで合わせ、狭いニアサイドにボールを送り込んだ。右サイドからゴール正面にパスが送られれば、GKはニアサイドから逆サイドにステップを切る。右に体が流れ右足に重心が移っていくので、左サイドには反応しにくい。前田はそのニアサイドを、冷静に射抜いた。

 昨年のJリーグ得点王は、点を取ることに開眼したのかもしれない。そう思わせる文句のつけようのないゴールだった。1月末、勝ち続けなければいけないW杯アジア最終予選が再開する。この「新たな戦力」を森保一監督はどのように使いこなすのだろうか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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