利用者の立場から言えば、大きな後退だ。
総務省が先週まとめた、インターネットの利用者保護に向けたIT規制強化案である。
検討した有識者会議では、検索サイトなどの運営企業が広告会社に利用者の閲覧履歴を提供する時は、利用者から同意を得るよう義務付ける素案が示されていたが、終盤になって見送られた。通知や公表を求めることにとどまった。
IT業界や経済団体から強い巻き返しがあったという。有識者会議の委員の中からは反発の声が上がっている。
2月中旬まで国民から意見を受け付けた後、電気通信事業法の改正案として国会に提出される。
国会の議論だけでなく、利用者も意見を発したい。ブラックボックス化しているネット閲覧後の仕組みに目を向け、自分事として考える必要がある。
例えば、スマートフォンで趣味に関するサイトを閲覧してみる。すると、趣味に関連する広告が別のサイトにも表示され、それがつきまとうように続く。
サイトの閲覧履歴を記録する「クッキー」と呼ばれる仕組みだ。利用者の端末とサイトでやりとりされ、収集された閲覧履歴は本人の知らぬ間に広告会社などに渡り、ネット関連企業の収入になるというわけだ。
サイトの利用者情報は必ずしも氏名などの個人情報に結びつかないとして、保護の目が向けられていない。しかし、クッキーなどのオンライン識別子にひも付けられた通信履歴や位置情報、アプリ利用履歴などから本人特定が可能になる。
昨年3月に発覚したLINE問題では、中国の委託先から利用者情報にアクセスが可能になっていた。2年前の米大統領選では英国のデータ分析会社がフェイスブックの大量の利用者情報をもとに世論誘導していたとされる。
ネット利用の危うさを示す事例であり、対応策も出てきている。欧州連合(EU)が4年前に定めた一般データ保護規則は、サイトを開くとクッキーの使用について「同意」か「拒否」の選択が提示されるようにした。
欧州ではネット上でも個人情報保護を掲げ、それを人権ととらえているのだ。
一方で、同意確認を形骸化させるサイトも出てきているという。
個人情報を守りつつ、ネット利用を進めて新しいものを生み出す。そうした仕組みが求められる。